注目作『機械翻訳と未来社会 ─言語の壁はなくなるのか』の発売前に編著者のお二人、瀧田 寧氏と西島 佑氏から本書こぼれ話を送っていただきました。
出版のきっかけ
瀧 田 ようやくすべての校正が終わって、原稿がわれわれの手を離れたね。
西 島 そうですね。最後の最後まで直すところがたくさんありました。松田代表や編集の本間さんには本当にお世話になりました。
瀧 田 西島さんは手書きの校正が初めてだと言っていたよね。
西 島 ええ。ぼくが所属している学会や大学の機関誌では、校正をPDFでやり取りしているので、今回は校正の過程でもいろいろと勉強になりました。たしか2校を届けに行ったときだったかと思うのですが、松田代表が見慣れない校正記号を使用していて、驚いた記憶があります。
瀧 田 西島さんは修正指示を文章で書き込んでいたものね。しかもそれをPDFにして持ってきていたので、私はあれが新鮮でした。だけど、文章だと一つ一つ読まなければならないので、時間がかかったね(笑)。
西 島 ところで瀧田先生は「あとがき」に、本当はもっと書きたいことがあったようですね。
瀧 田 そう。だけど、頁数がちょうど240頁というきりのいい数字だったので、あれ以上増やさないことにしたのです。その分を、社会評論社さんのブログで紹介しようかな、と。
西 島 どのようなことだったのでしょうか?
瀧 田 もともとこの本を社会評論社さんから出させていただくにあたっての、きっかけのようなことだね。
西 島 話が長くなりますか?これ、ミニ対談ですけど。
瀧 田 いや、すぐ終わらせます(笑)。実は、2013年に社会評論社さんから刊行した『日本海沿いの町 直江津往還』(以下、『直江津往還』)という本の制作に、私は編集副幹事としてかかわっていました。郷土史研究の成果ではありますが、あえて全国出版したことで、直江津以外の方々からも結構反響があり、私も自分が担当した章に関して、札幌の方から講演を依頼されたりもしました。
西 島 やっぱり長くなりそうじゃないですか!(笑)
瀧 田 わかった、手短にするね(苦笑)。で、そうした感じで、とにかく刊行後も時々、『直江津往還』で取り上げたテーマに関連するイベントや出会いがあり、そのたびに社会評論社さんに伺って、数冊ずつ購入していたのです。そういう時にいつも窓口になってくださったのが、板垣誠一郎さんでした。そのうち板垣さんから、また何か書きませんか?というありがたいお誘いをいただくようになったのです。
当初は『直江津往還』の続きを考えていたのですが、すぐには難しいので、しばらくお待ちいただいていました。そうこうするうちに西島さんの「機械翻訳と未来社会」のワークショップにかかわるようになり、その評判も良かったので、これなら少し工夫すれば本になるのではないか、と考え、板垣さんにご提案したところ、好意的な反応をいただいたのです。そういう経緯で今回の原稿をこちらに持ち込んだので、お声をかけていただいた板垣さんにも深く感謝しています。
西 島 なるほど、『直江津往還』のときからの板垣さんと瀧田先生の関係がきっかけとなり、今回の『機械翻訳と未来社会』への出版につながったのですか。本来だったらむすびつかないものがむすびついたことになりますね。
カバーのバベルの塔について
瀧 田 郷土史と機械翻訳って、そう言えば本来だったらむすびつかないと思われるかもね(笑)。ところで校了とほぼ同時に、カバーもできましたね。『直江津往還』の時には、日本海に沈む夕日をイメージしたデザインをお願いしたのですが、今回はカラフルで、未来社会の文字が強調されているのもいいですね。
装丁・右澤康之
西 島 カバーの絵はバベルの塔です。ちなみにワークショップのポスターでもバベルの塔を背景として使用したのですが、書籍のカバーと違うことに瀧田先生は気づいていますか?
瀧 田 もちろん気づいてはいるけど、違いをあらためて教えてもらえる?
西島 バベルの塔は、古典画から現代のCGによるものまでたくさんあります。ワークショップのポスターで使用したのは、CGでつくられた素材でした。
瀧 田 そ うだったの?!
西 島 で、今回の書籍のカバーは、17世紀前後の風景画家ヨース・デ・モンペル二世の作品の1つですね。バベルの塔というと、モンペルより前のブリューゲルの作品が有名ですが、こちらはぼくが所属している日本言語政策学会のホームページ(http://jalp.jp/wp/)の背景にもなっているので、かぶらなくてよかったです(笑)。ブリューゲルの塔と比べると、モンペルの作品では塔がより高い特徴がありますね。
瀧 田 本書では巻頭言から「バベルの塔」の話が出てくるので、カバーのイメージと内容が合って、よかったです。
おわりに
西 島 今回、ぼくは本書の読者層として、とくに文系の方々を意識しました。機械翻訳や人工知能というと、どうしても理系の視点から書かれたものが多いのですが、機械翻訳や人工知能はこれからますます身近なものになってくると予想されるので、それらが社会にどのように浸透するのか、という問題は、人間や社会のあり方を考える文系の人間にとっても、大きな課題になると思うのです。
それで、理系の方々だけでなく文系の方々にも、「一緒にこの問題を考えていこうよ」と呼びかけるような意識をもって、執筆や編集に臨みました。だから機械翻訳と社会の関係に関心があるすべての方々に本書を手に取っていただきたいですね。瀧田先生はどうでしょうか?
瀧 田 そうですね。機械翻訳とのつきあい方を、いろいろな現場ですでにあれこれ考えている方はもちろんですが、まだ機械翻訳にあまり触れていない方にも、この本のどこかのページをきっかけにして、まずは機械翻訳そのものに関心を持っていただけると嬉しいですね。