5月8日、前図書新聞代表の井出彰さんの訃報が入りました。ご冥福をお祈りいたします。
井出さんが図書新聞紙上に連載し、その後小社から刊行した『伝説の編集者・巖浩を訪ねて 「日本読書新聞」と「伝統と現代」』(2008年)を紹介します。
*本書「あとがき」より抜粋
人生は一本の道しか選べない。何本の道を歩くことは出来ない。まっすぐな道でさびしい、と山頭火は詠んだ。振り返ってみたら、二十歳代、「日本読書新聞」という書評紙に入って、途中、小さな出版社をやったが、また同じ業種の「図書新聞」に入社してした。歩いているときは、石ころだらけ、とても越えられそうにない大岩や泥沼が遮っていた。しかし、能がないといえばそれ迄だが、廻り道も出来ずにただ汗を流しながら前へ、前へと進んできた。
五十歳代の半ばを越えたとき、もう駄目だと思った。この先をどうやって行こうかと、頭の中で何度も反芻した。そんなとき、同じ道の前方を歩いている一人の男を見つけた。しかもその男は二十年近くも先を歩いているというのに、しごく元気だ。この男から何か学んでやれ、偸んでやれ、と接触していった。氏の元気からいろいろなものをもらった。それならば、もう少し頑張ってみよう、もう少し続けてみようと思っている内に十年過ぎてしまった。すると周りで声をかけてくれる人が何人か現れた。お陰で「図書新聞」はまだ続いている。
井出彰
出版界を疾走したひとりの男。その人生航路に惹かれ、沼津、津久見、奈良、津、京都と伝説の編集者を訪ねて、思索と酒の旅は続く。そして・・・
プロローグ 桜の奈良で
第1章 「日本読書新聞」時代
第2章 「伝統と現代」時代
第3章 沼津・松蔭寺時代
第4章 臼杵・津久見・佐伯への旅
第5章 アフリカの海へ
第6章 奈良に移り住む
第7章 三重県津に行く
第8章 終の棲家か、京都へ移住
老辣無双のリベルタンの軌跡
『吉本・谷川新聞』などと戯称されつつ、安保闘争後の思想状況を切り開いた『日本読書新聞』。低迷する八〇年代に思想の孤塁をまもった『伝統と現代』。この両者を主宰した巖浩は前者の読者をうならせた名コラム『有題無題』の筆者でありながら、青臭い観念が大嫌いな柔道とりでもあった。思想とは生きるスタイルのことだと信じ、出版界から離脱して労務者暮らしまで経験した老辣無双のリベルタンの軌跡がいま明かされる。
渡辺京二
井出彰 著
伝説の編集者・巖浩を訪ねて 「日本読書新聞」と「伝統と現代」
四六判上製・224頁 定価=本体1800円+税 ISBN978-4-7845-1469-4
2008年刊 在庫あり