|刊行情報| 歴史知の百学連環 文明を支える原初性   石塚正英/著

先史・野生の諸問題を通して現在この地球上に生きて存在する意味を問う”文明を支える原初性”シリーズ。

*はしがき(全文)

石塚正英

書名にある「歴史知」および「百学連環」の説明をもって「はしがき」としたい。前近代の生活文化・精神文化に、現代社会の生活文化・精神文化を支える歴史貫通的な価値や現実有効性(actuality)を見通す知、それが歴史知である。近代ヨーロッパ人のように、科学知・理論知の立場にたつ人の多くは、肉体=身体に対する霊魂=精神の優位を説く。脳死すなわち人の死、という現代的な発想にはこの構えが潜在している。それに対して、ヨーロッパの辺境やその外部地域に生活する多くの人々のように生活知・経験知の立場にたつ人の多くは、霊と肉とを区別したがらない。霊とか精神とか理性とかを認めないわけではないにせよ、人間(精神)も自然(肉体とそれを包み込む環境)の一部であることに、さして異論をとなえない。歴史知的な立場・視座は、その双方の価値や意義を、転倒という構えで以って連結させる。科学知・理論知の立場を転倒させると生活知・経験知の立場に至り、その両極を交互的に連結させる構え、パラダイムが「歴史知」なのである。以下に、その具体例を引く。

ヒト(Homo sapiens)は知性(sapiens)でもって道具(faber)をつくったのでなく、道具=社会的自然をつくることで知性を獲得し、その過程でヒトは人間となった。道具=社会的自然は、本来は人間のアルターエゴ(alter-ego もう一人の私)として間主観的に存在したが、やがて転倒が起こって人間の生存手段に貶められた。だが、いまや道具=社会的自然は情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)を備えて人間のパートナーに返り咲く。けれどもそれは人間=身体の拡張としてあるのではない。人間=身体を介して自然=環境が道具に吸収され凝固・結晶することによって生じるのである。身体の変容は、身体が道具を用いて環境へ拡張することによって生じるのではなく、環境が道具を通じて人間身体に吸収され凝固・結晶することによって生じるのである。かように、〔道具=社会的自然〕は〔人間=身体〕のアルターエゴなのである。こうして〔脳=知性〕は〔身体=感性〕に支えられる。あるいはまた、或るときの「ホモ・ファベル(Homo faber、道具を使う人)」は、或るときには「ホモ・ルーデンス(Homo ludens、遊ぶ人)」であり、また或る時には「ホモ・ベルム(Homo bellum、戦う人)」である。いずれをも否定することはできない、転倒を介しての相互連携である。

もう一つ、歴史知に続けて置かれている「百学連環」について説明する。この語は幕末明治前期の思想家にして明六社の設立同人である西周が私塾の講義で使用したもので、Encyclopediaの翻訳である。その語を私は、自身の電子ブログ「歴史知の百学連環」で、以下のように自分なりに説明している。「自然と人間、世界と地域、過去と現在、それらは相互に連環し、諸学は相互に連環している。それは歴史知を、身体知を形成する。前近代に起因する知(経験知・感性知)と近現代に特徴的な知(科学知・理性知)を時間軸上で連合する。感性知と理性知を両極にして相互に往復運動をする、両者あいまって成立する知的パラダイムである。これこそが人類史の二一世紀的未来を切り拓く知、【歴史知】なのだ」。なお、本書に収録した文書は、論文・講演・エッセーなどを含む。それらの文体・表記はあえて統一されていない。

以上の説明を以って本書へのいざないとする。


 

目次
I 文明を支える先史の精神
第1章 〔講義〕先史の精神あるいはプラトンの相対化
第2章 〔講演〕神話の三類型—天地開闢・国産み・天地創造(成る・産む・創る)
第3章 土偶は植物そのものという新解釈をめぐって—『土偶を読む』へのコメント
第4章 信濃・上野古代朝鮮文化の関川水系遡上という可能性
第5章 親鸞の弥陀と越後の鬼神〔続編〕—今村仁司の親鸞研究を参考に
第6章 プシュケーという幻想態—蝶か息吹か魂魄か

Ⅱ 身体知・感性知による科学文明批評
第7章 〔講演〕マルクス『資本論』のフェティシズム無理解
第8章 物象化論を包み込むフェティシズム史学
第9章 〔講演資料〕アミルカル・カブラルと3A—アート・アウラ・アフリカ
第10章 〔講義〕技術者倫理の二類型
第11章 〔講義〕複合科学的身体論へのいざない

Ⅲ 歴史知の落穂ひろい
第12章 歴史知の落穂ひろい1
第13章 歴史知の落穂ひろい2

Ⅳ 研究生活五〇年記念
第14章 〔講演〕歴史知の知平あるいは〔価値転倒の社会哲学〕―研究生活五〇年記念

石塚正英
いしづか・まさひで 東京電機大学名誉教授。NPO法人頸城野郷土資料室(新潟県知事認証)理事長。著作『石塚正英著作選【社会思想史の窓】』全6巻『革命職人ヴァイトリング―コミューンからアソシエーションへ』『地域文化の沃土 頸城野往還』『マルクスの「フェティシズム・ノート」を読む―偉大なる、聖なる人間の発見』ほか多数

 

2022年6月7日刊
歴史知の百学連環 文明を支える原初性
石塚正英/著
定価=本体3000円+税 ISBN978-4-7845-1889-0 A5判上製328頁


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投稿者: 社会評論社 サイト

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