|刊行情報| リカード貿易論解読法 『資本論』に拠る論証  福留久大 /著

ディヴィッド・リカードはどのように誤解されてきたか。

優れた研究者四名(宇沢弘文・小宮隆太郎・中村廣治・根岸隆)の誤解に基づく弱点が明示される。通説を根底から覆す“福留比較生産費説”。国際経済論や学史テキストに変更を迫る著者渾身の論考。

*「序言 固定観念への抵抗の辞」抜粋

ディヴィッド・リカード『経済学および課税の原理』 (David Ricardo, On the Principles of Political Economy and Taxation. 1817)の「外国貿易論」で説かれる比較生産費説は、高校の「政治・経済」教科書と大学の「国際経済論」教科書の必須事項であって、極めて著名な存在である。しかしながら、それを巡る教科書の説明が、或いは通常の辞書の説明が、原著者リカードの言明に反し、商品(=市場)経済の基本的事実に反する内容に変形していることは、全く知られていない。
……
英国米国の当代一流の大学者が、誤読誤解によってリカード見解の核心を除去して、貿易利益を謳う絶妙の牧歌的定式を仕立て上げ、普及させ通説として固定観念化させた。以後、多くの経済学者が、リカード原典に拠らずに、固定観念化した解釈を学び教え踏襲する慣行が生まれ定着した。リカード貿易論の基本概念について、思考の陥穽が生まれ専門家集団は思考停止に陥った気配である。貿易認識が歪み資本主義認識に欠落が生じる。
……
米ソ冷戦終結後三十年余、グローバリゼーション下の国際貿易は、共存共栄と相互利益の世界を生み出してはいない。優勝劣敗と弱肉強食の苛烈な競争が、格差と分断を拡大し国際秩序を崩壊させつつあるのではないだろうか。各地に立ち現れる異形の権力者による理不尽な振る舞いは、秩序崩壊の反映とも言えよう。比較生産費説の通説的解釈と国際貿易の現実との大きな乖離は、冷静沈着な考察を促すに違いない。そういう思いを抱きつつ、筆者は病床にあって命の残り火を見守るとともに、鎧兜に抗する紙礫の健闘を祈念している。


目次

序言 固定観念への抵抗の辞

第一章 比較生産費と国際価値―リカード対ヴァイナー
序節.問題の所在と課題限定
一節.比較生産費説原文訳文
二節.古典学派の二重の視点
三節.比較生産費説の解読法
(1)マルクス価値論の目標
(2)スミス貿易論の二視点
(3)リカードの四つの数字
四節.比較生産費説の誤読例
(1)現代日本における事例
(2)ミルからヴァイナーへ

第二章 比較生産費と国際価値―サムエルソン会長講演
序節.問題の所在と課題限定
(1)サムエルソンへの疑問
(2)根岸隆氏のリカード論
(3)二重の視点に立つ理解
(4)根岸氏とサムエルソン
一節.サムエルソン会長講演
(1)会長講演のリカード論
(2)リカードへの第一言及
(3)リカードへの第二言及
(4)三項目のリカード論議
二節.リカード比較生産費説
(1)リカード価値論の応用
(2)リカード貿易論の例解
三節.比較優位説の比較検討
(1)『経済学』の貿易理論
(2)比較優位論の第一例証
(3)第一例証の批判的検討
(4)比較優位論の第二例証
(5)第二例証の批判的検討
四節.奇妙な経済地理の解明
(1)根岸隆氏の批判の試み
(2)根岸隆氏の誤解の補正
五節.トレンズの比較優位論
(1)トレンズとヴァイナー
(2)トレンズの理論的弱点
(3)トレンズの穀物貿易論
(4)Tの主張、Rの微苦笑
(5)トレンズの議論の背景

第三章 比較生産費と国際価値―リカード対アーウィン
序節.問題の所在と課題限定
(1)古典学派対反古典学派
(2)アーウィン古典学派論
一節.リカード比較生産費説
二節.トレンズとアーウィン
(1)トレンズの比較優位論
(2)トレンズの穀物貿易論
三節.J・ミルとアーウィン
(1)J・ミルの比較優位論
(2)J・ミルの貿易利益論
(3)アーウィン機会費用論

第四章 対リカード誤解の構造―D・アーウィンの場合
序節.問題の所在と課題限定
一節.サムエルソンの大誤解
二節.アーウィン見解の批判
三節.マルクスの二重の視点
四節.アーウィン対リカード
五節.リカードの労働価値論
六節.リカード貿易論の核心
補節.リカード貿易論の諸相

第五章 How David Ricardo Has Been Misunderstood : The Case of Douglas A. Irwin

第六章 How David Ricardo Has Been Misunderstood : The Case of Jacob Viner

結言 著書刊行への感謝の辞
引用文献一覧


福留久大
ふくどめ・ひさお 1941年生まれ。九州大学名誉教授。著訳書:『現代日本経済論』(共著、東京大学出版会)、『九州における近代産業の発展』(共著、九州大学出版会)、『資本と労働の経済理論』(九州大学出版会)、『ポリチカルエコノミー』(九州大学出版会)、I・バーリン『人間マルクス─その思想の光と影』(サイエンス社)。

2022年7月8日刊
リカード貿易論解読法 『資本論』に拠る論証
福留久大 /著
定価=本体2600円+税 ISBN978-4-7845-1890-6 A5判並製292頁


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投稿者: 社会評論社 サイト

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