| 詳報 | 日本近代演劇史研究会/編 革命伝説・宮本研の劇世界

定価=本体3,200円+税 四六版上製344頁
ISBN978-4-7845-1139-6

不発に終わった日本の<革命>というボールを舞台にあげてゴールを探し求めて歩いていった劇作家の軌跡を照らす──

宮本研(みやもとけん):1926~1988 熊本県宇土郡生まれ、天草・佐世保・北京で育つ。九州帝国大学経済学部卒業。法務省在職中、演劇サークル「麦の会」で作・演出を担当して演劇界へ。1963年「明治の柩」で芸術祭奨励賞を受賞。

収 録 内 容


初期作品に秘められたもの 「僕らが歌をうたう時」「人を食った話」「反応工程」を主にして

菊川徳之助
はじめに 宮本研との出会い
[1]「僕らが歌をうたう時」(一九五六年六月)
[2]「人を食った話」(一九五七年六月)
[3]「反応工程」(一九五八年十月)
おわりに

「明治の柩」 あえてタブ─〈天皇制〉にふれる

井上理恵
はじめに
[1]田中正造と鉱毒事件
[2]「明治の柩」──請願押出し
[3]一幕──新思想と鉱毒反対
[4]二幕──民をもって貴しと……、君をもっとも軽しと……
[5]鎮魂のための終曲──国家の根幹を問い直す

「ザ・パイロット」 散乱するイメ─ジとドラマ

今井克佳
[1]イメ─ジの劇
[2]クリスと六平太を捉えるイメ─ジ
[3]クリスと六平太の対決
[4]終わりに

「美しきものの伝説」 見えない主人公の正体

阿部由香子
伝説の誕生
[1]演劇的な人物造形
[2]見えない主人公
[3]人柱と祝祭

「聖グレゴリ─の殉教」 皆何かを探している。一度は手に入れたはずなのに…

林廣親
[1] 作品の興味について
[2]上演と劇評のこと
[3]劇中劇の特徴とそのねらいについての仮説
[4]アカ─キ─・アカ─キエヴィッチ・パシマチキンのこと
[5]グレゴリ─・エフィ─モヴィッチ・ラスプ─チンについて
おわりに

「夢・桃中軒牛右衛門の」 「反歴史劇」の語り

伊藤真紀
はじめに
[1]「民権」語りと「さまよう」滔天
[2]「語り」の手法
[3]槌と波、二人の女性の「語り」
おわりに

「からゆきさん」 〈悲惨さのない〉女たち

宮本啓子
はじめに
[1]白いドレスの〈誘拐者〉──紋
[2]西洋化する性道徳と近代化する日本──藤尾と五和崎の結婚
[3]天皇の赤子──多賀次郎と男たち
[4]民衆の可能性──からゆきさんたち

「新釈・金色夜叉」 宮という〝永遠の他者〟をめぐって

鈴木彩
[1]「新釈」たる所以とは
[2]〈金色夜叉〉との差異/「金色夜叉」との合致
[3]宮の〈ここにないもの〉への希求
[4]宮の空白に、彼らは何を見たのか
[5]〝永遠の他者〟と生きること

「冒険ダン吉の冒険」 多重層構造のドラマツルギ─

斎藤偕子
[序]南洋進出の日本人
[1]資料としての素材
[2]ドラマ展開の二重構造=主・副のアクション
[3]主題と夢の世界・浦島寓話の逆説

「新編・吾輩は猫である」 自我のゆくえの物語

根岸理子
はじめに
[1]漱石主役戯曲の競作
[2]戯曲の構成
[3]鏡子像
[4]金之助像
[5]男と女
おわりに

「高崎山殺人事件」 一人二役の劇中劇による共有

内田秀樹
[1]宮本研と大分
[2]モ─ヤン
[3]怪人20面相という案内役
[4]一人二役の劇中劇
[5]事件解決
[6]少年探偵団

「花いちもんめ」に関する考察 英訳「花いちもんめ」(マリ・ボイド 訳)

ボイド眞理子

英訳「明治の柩」の前後左右

湯浅雅子 訳

あとがき(抜粋)


わたくしたちの研究会で宮本研の戯曲を検討し始めてから二年がたつ。宮本研を選んだのは、もちろん亡くなった劇作家ゆえに劇世界全体が把握可能であったからだ。

その上で、一つ一つの作品が非常にユニ─クで新しい試みに溢れていること、しかも裡に秘めた〈メラメラと燃える反体制志向〉が、戯曲にちりばめられているところに惹かれた。

これは各論文をお読みいただければわかるだろう。

宮本研には〈戦後史四部作〉と〈革命伝説四部作〉という作品集がある。本書ではその何作かを取り上げた。

前者は一九四五年から二〇年間の、宮本研が生きた「歴史的時間」を、後者は「天皇紀元で明治三三年から大正一二年」までの、過去の「歴史そのもの(略)対象化された、死んだ時間」が扱われている。

いわゆる「歴史劇」とくくってもいい八本の作品群はおよそ一五〇〇枚にものぼる多幕物作品集で、これらは全て劇作家宮本研の登場から十数年の間に書かれ上演されてきた。

宮本研は「〈戦後史〉のモチ─フが生きた時間を歴史として死なせたいということにあったとすれば、〈革命伝説〉のそれは、逆に歴史として死んだ時間をこんにち(に)よみがえらせようとするところにあったといえるだろう」(「〈革命〉──四つの光芒」)と記している。

つまりは自分自身が生きていた時間はもちろん、「すでに歴史として埋葬されている時間」にも立ち向かい、個が社会で〈生きる〉ということは〈何か〉を問いかけているのである。

宮本研という劇作家の〈核〉がここにはあるといっていいだろう。そのようなつもりで、わたくしたちは宮本研の戯曲に向かった。

周知のようにこの国では現実社会の革命は挫折した。が、演劇史上に勃発した〈演劇革命〉は20世紀半ば過ぎに成就した。これはわたくしたちにとってまさに天の配剤・見事な歴史的出来事であった。

その移り変わりは、研究会で出した三冊――『20世紀の戯曲Ⅰ 日本近代戯曲の世界』『20世紀の戯曲Ⅱ 現代戯曲の展開』『20世紀の戯曲Ⅲ 現代戯曲の変貌』――を見ていただけばわかる。戯曲と舞台の〈演劇革命〉が徐々に火の手を上げはじめ劇作家や演出家の生み出す世界が、ドラスティックに変化していく様子が見て取れるからだ。

宮本研はその担い手の一人であった。この三冊のⅠとⅡの序論に西村博子が〈戯曲の変遷史〉――「日本の近代戯曲 一八七九~一九四五」を、Ⅲの序論に井上理恵が〈演劇史〉――「演劇の100年」を記した。これらも併せて読んで頂けると、〈演劇革命〉の〈意〉がさらにわかるはずだ。

井上理恵


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