倉知敬/著『チベット●謀略と冒険の史劇 アメリカと中国の狭間で』(「はじめに」全文紹介) 

図書新聞2017年10月14日付で書評掲載です!! 金子民雄・評「知られざる現在のチベットの現状を明らかに 政治・外交面の隠された真実が詳細に公開されている」
『出版ニュース』2017年9月下旬号 Book Guideコーナーで紹介されました!!

20世紀チベット史の軌跡が語るものは何か。『青いケシの国』『エリック・シプトン 山岳探検家・波瀾の生涯』『冒険の達人 クリス・ボニントンの登山と人生』の翻訳書を手がける倉知敬氏の新刊『チベット●謀略と冒険の史劇 アメリカと中国の狭間で』を刊行しました。

倉知敬/著
チベット●謀略と冒険の史劇 ──アメリカと中国の狭間で
四六判並製・359頁(カラー口絵8頁)定価=本体2300円+税

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著者より読者のみなさまへ
本書「はじめに」


チベットのことを日本語で述べる、ということにどんな意味があるのか。

それは、日本の人々には、チベットの人々の境遇、特にこの一世紀程の数奇な成り行きの本当のところがほとんど知られていないこと、そしてその現実を知っておくと、この先の自分たちのことを考えるのに役立つかもしれない、という日本向けの発信となることにある。

「人々」と言う時、それは民族とか国とかいう集団を念頭に置いているのだが、他の国々では複合的な民族構成の例が多いのに比べて、日本の場合は大多数が大和民族という、単一の同族人種としてとりわけまとまっている。

その上、国土が海に囲まれて、ある種隔離されているせいか、総体的に内向きな性向が強い、というのが特色だろう。何しろ日本語だけ知っていれば、大概の知識は身に付き世界中のことが判るのであり、例えば英語教育の重要度を叫んでも、大方の人は学校で基礎を学んでお終いである。

要するに外に直に接する必要はないのである。一方、外国語堪能な人は「外国語使い」と見做されるだけで、広い視野などあっても無縁なもので、賢いとか尊敬される存在とはならない。

二十世紀初頭、神秘に包まれたような(つまりそれだけ独自独歩の存在だが)、しかし確かな自覚を有していたチベット民族という集団は、百年余経った今バラバラに、中華人民共和国国民の一部となり、或いはインドで亡命政府と共に生き、また世界各地で難民生活をしている。昨今は、本拠では集団移転を強要され指定地区に暮らすとか、民族自決と叫んで僧侶が焼身自殺を図ったとかのニュースが報じられたりする。

その間に何があったのか。

暴動とか虐待とかの事件が断片的に報じられて、日本でも薄々とは実態を推し量ることは出来るが、一方でチベット人民は抑圧から解放されて自由になった、ダライラマ亡命政府は反逆集団だ、それ以上は内政干渉だ、と中国からは報じられる。片や日本では、いくらかの実証記事や書物が発表されているものの、系統的に歴史事象として把握するに足る資料は見当たらない。

ところが欧米ではそうでない。ある程度判るのである。つまり、二、三の例は除いて、日本語の資料がないのだ。

日本では昔から、欧米の文物を取り込むのに、杉田玄白の「解体新書」の如く、識者が外国新知識を紹介するという翻訳文化のお蔭を大いに享受してきた。ところが、チベットの現代史については誰もあまり紹介しない。

縹渺たるチベット大高原や、未知の荒野を探検するロマンなどには憧れるが、生臭い人間の争いには辟易するだけだからだろうか。

チベット民族の自立願望を巡る抗争史は、当事者の発表する記録、関係者の関与に係る証言、外交関係国の解禁公文書の調査、ジャーナリストの取材、とかを通じて少しづつ明らかにされ、欧米ではそれらが書物として出版され、様々な歴史文献として提供されて来ている。しかし惜しむらくは、翻訳されて日本語の資料として目に留まることにはならず、日本では知られずじまいだ。

本書は、それらの日本未紹介の文献の何編かを採り上げ、独立抗争の主役となった志士、国際情勢に則して活躍した諜報員、民族支援に挺身した宣教師、人権擁護に燃えるジャーナリスト、などの足跡に焦点を合わせ、ある程度時系列基準に要点を連ね、適宜その業績を評価する試みもした。そうする立場として、それらが日本の国家なり民族としての存在に教訓となる意義とは何か、という見方に視点を置いている。

また同時に、それぞれのお話は、多かれ少なかれ命を賭けた冒険の物語でもあり、そういう緊迫性も表現するように努めたが、その効果の程はどんなものだったか、それはこれから本文を読んで判断して頂こう。

倉知敬


序 章 二十世紀チベット史の軌跡が語るものは何か

第1章 米空軍輸送機がチベットに墜落した ─その背景にある英露米中の絡み合い

第2章 米諜報局CIA密使のチベット高原縦断記録 ─アメリカの本格的介入が始まった

第3章 東西冷戦の孤児となったチベット ─カンバ族の蜂起と冷徹な国際情勢の矛盾

第4章 チベット解放を目論むCIA謀略顛末記 ─ゲリラ蜂起武器空輸、米印連携ムスタンゲリラ、中印国境紛争支援

第5章 チベット支援に生涯を捧げた冒険男パターソンの物語 ─秘境探検行から民族抵抗の軌跡まで、その真相を語る証人

第6章 チベット民族壊滅を図った中国共産党政権の残虐行為を暴く ─勇敢な英国女性が企てた、その証拠を探究する旅

第7章 モンゴル族が人民解放軍チベット侵略を先導した ─最強の騎馬軍団を育てたのは満州国関東軍だった

第8章 「天」の国は「夷」を駆逐する チベット民族抗争史の背景にある中国共産党政権「百年マラソン」戦略

終 章 チベットの教訓


 

 

倉知敬/著
チベット●謀略と冒険の史劇 ──アメリカと中国の狭間で
四六判並製・359頁(カラー口絵8頁)定価=本体2300円+税

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投稿者: 社会評論社 サイト

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