地域からの社会運動が生み出した反核平和の新たな視座。地域の生活圏に根ざした反核平和運動に取り組む加藤一夫氏の新著『ビキニ・やいづ・フクシマ ─地域社会からの反核平和運動』を刊行しました。
朝日新聞埼玉版2017年8月14日付けに本書と著者の紹介記事が載りました!
埼玉)元静岡福祉大学長の加藤さん、反核平和運動を本に http://www.asahi.com/articles/ASK8966QMK89UTNB01N.html
著者より読者のみなさまへ
本書「プロローグ」抜粋
本書は、水爆実験で被ばくしたマグロ漁船第五福竜丸の母港である静岡県焼津市を中心に行った「地域から平和をつくる」運動の記録である。2003年から形を変えながら現在まで続いている社会運動だが、その前提になったのは、2001年から開始され継続的に行ってきた「やいづ平和学」という市民講座である。
本書はそこで行われた講義や討論を中心に、いくつかのテーマでまとめたものである。この運動は、ビキニ事件を掘り起こして新たな事実を披露するのではなく、地域で「忘れ始めている」事件を引き戻して、後世に伝えることを目的としている。
「忘れさせる力」に同調させていく見えざる圧力に抵抗する運動でもある。その意味で新しい知見を提供するビキニ事件の研究書ではない。
討論に際しては、私自身のスタンスを「リベラル革新」として提示し、大学での講義のように多様な考えを総合的に示して議論するということはしなかった。ただ地域社会では、リベラルは分が悪い。リベラルは建前と理念を提示するが、現実に切り込んでいないといわれている。
私自身、右や左といった言葉を使いたくないが、リベラルの左にいるといっていい。東京の左のサークルは、ほぼ同質の人々で議論するが、地域社会では違う。左右が一体となっていて、左の人々は理念や「正しさ」、建前を強調しがちで、生活者のドロドロした現実の目線に立ってはいないと思われている。
本書は、前半がビキニ事件・第五福竜丸事件が与えた影響や課題についてまとめた市民講座の報告で、後半は、焼津市での平和運動、2015年の安保闘争、また私自身の活動の歩みについて報告したものである。
プロローグ
第Ⅰ部 戦後史の中のビキニ事件
第1章 ビキニ事件と第五福竜丸──新たな展開の中で
はじめに
1.第五福竜丸 ビキニ事件の本質
2.前史と背景
3.戦後の時代状況
4.第五福竜丸事件 経緯と結末
5.ビキニ事件と日米関係
6.多数の被ばく船
7.海洋汚染とその調査
8.政治決着
9.被ばく後の第五福竜丸 保存運動
10.第五福竜丸が果たした歴史的役割
11.国家賠償請求訴訟に寄せて
結び 残された課題
第2章 反核平和運動の検証──平和運動に未来はあるか
はじめに
1.戦後の出発と平和運動
2.第五福竜丸事件と反核平和運動
3.全国に拡大する署名活動
4.原水爆禁止世界大会 その歴史的意味
5.大会の分裂・変容と地域への影響
6. 60年安保闘争以後の平和運動
7. 80年代の平和運動 ヨーロッパ反核運動の影響
8.冷戦の終結と平和運動
9. 2015年安保闘争と路上の民主主義
結び 検討課題
第3章 核に囲まれた世界──核廃絶は可能か
はじめに
1.前史と背景
2.冷戦と核実験
3.核廃絶運動への道程
4.NPT体制の成立と課題
5.NPT再検討会議の推移
6.オバマ大統領プラハ演説の波紋
7.日本の核政策と「核密約」
8.核をめぐるいくつかの問題
9.核廃絶を目指して 具体的アプローチ
10.オバマ大統領の広島訪問をめぐって(所感)
結びにかえて
第4章 原発とエネルギー──3・11(原発事故)から学ぶ
はじめに
1.ビキニ事件と原発
2.福島第一原発事故 その衝撃と今後の課題
3.浜岡原発をどうする 再稼働か廃炉か
4.原発が抱える課題
5.原発反対運動(脱原発運動)
6.原発訴訟 司法による原発停止と責任追及
7.脱原発への展望 核と人間は共存できない
8.エネルギーについて考える
9.自然(再生可能)エネルギーへの転換 原発を超えて
結びにかえて いのちのための科学へ
第5章 ゴジラを語る──ビキニ事件の文化的インパクト
はじめに
ゴジラ、その魅力の源泉にあるもの
ゴジラの誕生
ゴジラ第1作の世界
ゴジラと日米関係
ゴジラと自衛隊
ゴジラと静岡県焼津市
ゴジラ、世界へ
ゴジラ映画と怪獣文化
3・11とゴジラ
ゴジラと鉄腕アトム
ゴジラふたたび
『シン・ゴジラ』の意味
結び ビキニから遠く離れて
第Ⅱ部 地域から平和をつくる
第1章 焼津流平和の作り方──第五福竜丸の母港で
はじめに
1.地域生活圏での平和運動
2.ビキニ事件と焼津市の平和活動
3.市民運動の新たな展開
4. 3・11の衝撃とビキニ事件60年
結びにかえて
第2章 平和・福祉・環境・暮らし──地域社会運動をめぐって
はじめに
1.地域社会運動とは
2.静岡県における社会運動の経験
3.地域に福祉の大学を創る
4.福祉と平和 平和について考える
5.平和と環境
6.高度経済成長の神話を超えて
結びにかえて
第3章 2015年安保闘争と戦後70年──私的活動報告
はじめに
1.1000人委員会・静岡を出発
2.背景にあるもの 安倍政権の再登場
3.集団的自衛権行使容認の論理
4.「1000人委員会・静岡」の展開
5.総がかり行動、そして9・19へ
6.若者の登場 路上の民主主義
7.戦後70年をめぐる活動
8.高校生平和大使活動に対する協力
9.沖縄の反基地闘争への参加・支援
10.脱原発運動への参加
結びにかえて 闘いは続く
【補論】「海のサムライ」として生きる ──見崎吉男第五福竜丸漁労長を追悼する
エピローグ
加藤一夫/著
ビキニ・やいづ・フクシマ ─地域社会からの反核平和運動
A5判並製・279頁 定価=本体2400円+税
購入サイト(外部リンク)
加藤一夫(かとうかずお) 1941年北海道(共和町)生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了(満期退学)。国立国会図書館勤務を経て、静岡県焼津市へ。静岡精華短期大学教授、静岡福祉情報短期大学副学長、静岡福祉大学学長、現在、静岡福祉大学名誉教授。関心領域は、国際関係論(東欧近現代史・ポーランド史、ナショナリズム論)、国際福祉学、平和学、社会運動、図書館論。日本平和学会会員。 1960年代から様々なボランティア活動や社会運動に参加、静岡では2015年末まで「戦争をさせない1000人委員会・静岡」呼びかけ人代表、「ビキニ市民ネット焼津」(代表幹事)、「くろしおネットはまおか」(顧問)、「さよなら浜岡原発 焼津市民の会」(共同代表)、「焼津9条青空の会」代表呼びかけ人などに参加し行動した。主な単著に『記憶装置の解体」(エスエル出版)、『情報社会の対蹠地点』(社会評論社)、『東欧 革命の社会学』(作品社)、『民族問題のアポリア』(社会評論社)、『歴史の転換と民族問題』(御茶の水書房)、『エスノナショナリズムの胎動』(論創社)。その他多くの共著書、訳書・共訳書がある。ビキニ(第五福竜丸)事件関係では、『やいづ平和学入門』(論創社)、共同監修で『焼津流平和の作り方』、『ヒロシマ・ナガサキ・ビキニをつなぐ』(いずれも社会評論社)がある。