まなざしと方法 ことばと身体
ジェンダー的視点 沖縄戦の記憶
占領と現在 「お国は?」
気鋭の若手沖縄研究者によるシリーズ「沖縄・問いを立てる」全6巻。後藤トシノブ氏による色鮮やかな装幀が際立ちます。刊行から8年、ご好評をいただいております。まだの書店様、図書館様にはぜひお取り扱いのご検討をお願いいたします。以下は刊行開始に合わせて作成したリーフレットに掲載した寄稿です。
◇シリーズ刊行にあたって◇
日米安保体制のもとで、基地被害をはじめ、文化、経済などにおいても沖縄をめぐる社会現実はきびしい状況下にありつづけてきた。沖縄研究は、沖縄からの問いかけにどのように対峙してきたのか。また、現在の沖縄研究は有効な展望と希望をひろく提示できているであろうか。
歴史学や社会学をはじめとして、沖縄にかかわる研究は、相対的にはかつてないほどの隆盛をみている。また、日本から沖縄への「興味・関心」は、さまざまな形態をもちつつ一般にもひろがっている。こうした実状をみれば、沖縄に関する単なる「無知」が沖縄への差別をもたらしたとする認識は、もはや成立しないことは明白である。
むしろ、わたしたちが注意深くみなければならないのは、沖縄に関する研究や「興味・関心」の内実がどのようなものであるか、この点であろう。沖縄研究に求められているのは、研究のための研究ではない。沖縄からの切実な問いかけに応答することのできるだけの構想力を備えた魅力あふれることばである。わたしたちは、沖縄研究の構想力をきびしく問い直し、ひろく提示するためにこのシリーズを編む。
シリーズ刊行にあたって、推薦のことばをいただきました。
新崎盛暉氏
二〇〇七年九月二九日の「教科書検定意見撤回要求県民大会」は、ヤマト・沖縄関係史の歴史的節目になるかもしれない。沖縄現代史上初めての一一万余の民衆を結集した炎天下の静かな大集会は、大会実行委員会やさまざまな参加者自身の予測をはるかに超えたものであった。大会に対する反応も、それぞれの立場によって、複雑で多様であり、一三年前、九五年一〇月二一日の八万五千人を集めた「米兵犯罪糾弾・日米地位協定見直し要求県民大会」に対する反応が、一様に好意的であったのとは、明らかに異なる。
この間、沖縄社会も、ヤマトも、沖縄とヤマトの関係も、これを取り囲む世界の状況も、大きく、複雑に変化してきた。
一方この間、歴史学、社会学、政治学、平和学等、さまざまな学会の研究大会では、沖縄をテーマにした研究発表やシンポジウムが相次ぎ、増えつつあるように思われる。確かに「日本であって日本でない」沖縄は、研究対象の宝庫ではあるはずだが、数多い沖縄研究は、はたして沖縄の歴史的社会的実像に迫り、将来的展望を切り拓く手がかりを与え得る内実を備えているだろうか。
若手論者五名によって編まれるこのシリーズは、こうした問いに正面切って応えようとする試みではないかと思う。沖縄返還(復帰)という歴史的な節目を前に、谷川健一によって「叢書わが沖縄」が編まれたが、この混沌たる新しい時代に、まったく新しい世代の論者たちの共同作業によって、谷川の仕事(とくに第六巻「沖縄の思想」)を越える成果が生み出されることを期待したい。
鵜飼哲氏
沖縄を思考することが困難になりつつある。私たちがこの困難から受ける挑発が力を増しつつある。答えが用意されている問いは問いではないこと、答えが欠けている問いにこそ応答しなければならないこと、そのような問いは歴史の水平線の彼方で発生すること、発生するやすべての過去の読み直しを強いること、そのようにして未聞の将来を呼び求めることを、二千ゼロ年代の沖縄は、もはやかたときも忘れることを許さない。
言語と身体、教育と国家、戦争と占領、開発と搾取、軍事と経済、ジェンダーとセクシュアリティ、近代と反近代、復帰と反復帰、脱出と帰還、歴史と記憶、暴力と非暴力、文学と音楽、コロニアリズムとポストコロニアリズム─これらの概念はどれも沖縄を説明しない。どんな理論も、沖縄を「素材」として「問題」を「形成」することはできない。反対に、沖縄をめぐる現実のただなかに投入され、そこで鋳直され、発明し直されて、概念や理論ははじめて、沖縄と出会うことができるだろう。
シリーズ「沖縄・問いを立てる」は、この困難な思考の空間で格闘し、闘争と研究のはざまで思想を鍛え、感性を培い、論理を磨いてきた第一線の執筆者たちによる画期的な共同作業の成果である。沖縄で生きること、沖縄とともに生きることが、生そのものの条件であるすべての人に、この叢書はかけがえのない知の糧をもたらすに違いない。
沖縄に向き合う ─まなざしと方法
沖縄・問いを立てる 第1巻
1…[座談会]沖縄の現実と沖縄研究の現在をめぐって
屋嘉比収・近藤健一郎・新城郁夫・藤澤健一・鳥山淳
2…問いを立てる
3…沖縄研究ブックレビュー
ISBN978-4-7845-0575-3 定価=本体1800円
方言札 ─ことばと身体
沖縄・問いを立てる 第2巻
近藤健一郎編
1… 近代沖縄における方言札の出現 近藤健一郎
2… 「南嶋詩人」、そして「国語」 村上呂里
3… 近代沖縄における公開音楽会の確立と音楽観 三島わかな
4… 翻訳的身体と境界の憂鬱 仲里効
5… 沖縄教職員会史再考のために 戸邉秀明
6… 沖縄移民のなかの「日本人性」 伊佐由貴
ISBN978-4-7845-0576-0 定価=本体1800円+税
攪乱する島 ─ジェンダー的視点
沖縄・問いを立てる 第3巻
新城郁夫編
1… 「集団自決」をめぐる証言の領域と行為遂行 阿部小涼
2… 沖縄と東アジア社会をジェンダーの視点で読む 坂元ひろ子
3… 戦後沖縄と強姦罪 森川恭剛
4… 沈黙へのまなざし 村上陽子
5… 一九九五─二〇〇四の地層 佐藤泉
6… 母を身籠もる息子 新城郁夫
ISBN978-4-7845-0577-7 定価=本体1800円+税
友軍とガマ ─沖縄戦の記憶
沖縄・問いを立てる 第4巻
屋嘉比収編
1… 戦後世代が沖縄戦の当事者となる試み 屋嘉比収
2… 座間味島の「集団自決」 宮城晴美
3… 「ひめゆり」をめぐる語りのはじまり 仲田晃子
4… ハンセン病患者の沖縄戦 吉川由紀
5… 日本軍の防諜対策とその帰結としての住民スパイ視 地主園亮
ISBN978-4-7845-0578-4 定価=1800円+税
イモとハダシ ─占領と現在
沖縄・問いを立てる 第5巻
鳥山淳編
1… 現代沖縄における「占領」をめぐって 若林千代
2… 琉球大学とアメリカニズム 田仲康博
3… 占領と現実主義 鳥山淳
4… 「復帰」後の開発問題 安里英子
5… 集団就職と「その後」 土井智義
ISBN978-4-7845-0579-1 定価=本体1,800円+税
反復帰と反国家 ─「お国は?」
藤澤健一編
沖縄・問いを立てる 第6巻
1… 〈無国籍〉地帯、奄美諸島 前利潔
2… 国家に抵抗した沖縄の教育運動 藤澤健一
3… 五〇年代における文学と抵抗の「裾野」 納富香織
4… 語りえない記憶を求めて 我部聖
5… 「反復帰・反国家」の思想を読みなおす 徳田匡
ISBN978-4-7845-0580-7 定価=本体1800円+税