猿田佐世氏・書評「安保至上主義の浸透過程を追う 纐纈厚著『権力者たちの罠』」(しんぶん赤旗 2017/11/12掲載)各地の書店よりお客様注文をいただいております。ありがとうございます。
『出版ニュース』2017/11/下旬号BookGuide欄で紹介されました。
「反テロ、安全、平和」
などという名称を関した法律に対しては
警戒しなければならない。
こうした誰も反対できないネーミングこそ、
権力者たちの罠だ。
権力者たちの罠から解放されるために
──「はじめに」抜粋──
2015年7月1日の集団的自衛権の行使容認の閣議決定から、同年9月19日の安保関連法制の国会での強行採決を経て、2017年6月15日、共謀罪が国会で、これもまた強行採決された。文字通り、日本は新たな政治状況を迎えている。安保関連法や共謀罪を語ることが、同時に現代日本の政治をストレートに語ることとなるのは論を俟たない。
もうひとつ、いわゆる安保体制が強化されるのに反比例して、日本の民主主義が劣化を余儀なくされていくという実態がある。つまり、安保至上主義が日本政治に浸透していく過程は、戦後日本政治の原理であったはずの戦後民主主義が〝戦後軍事主義〟へと変容を迫られる過程でもあった。その意味からも、安保を考えることは民主主義を考えることになるのである。
……私は歴史研究者としての視点から、戦前期の歴史を教訓とすべきだと強くうったえたのである。もちろん、戦前と戦後の違いは多々ある。戦後日本は、1951年以降、一貫して戦後の〝国体〟とも言える安保体制によってがんじがらめにされてきた。
いわゆる、安保至上主義によって軍事主義の浸透を許していく限り、戦後日本社会が目標としてきた民主主義の成熟は全く望めない。そして、ここでいう軍事主義の浸透を具現していく役割を果たす組織としての、自衛隊の役割が一段と大きくなっている。
この間筆者は、自衛隊問題や安倍政権について、様々な場で発言してきたが、一貫して思わざるを得ないのは、これだけ日本社会を不安に陥れ、アメリカをも含めた国際社会のなかで、表向きの華々しさとは裏腹に日本への警戒感ばかりを募らせ、不安視されている安倍政権が、それでも支持率が本年(2017年)7月2日実施の東京都議会選挙まで、50%台前後を維持していた現状の不思議さである。
私は以前から、安倍政権への高い支持率の背景には、国民世論形成に向けて、巧みな罠が幾重にも仕掛けられているのではないか、と思ってきた。安倍政権が次々に繰り出す、例えば「アベノミクス」、「戦後レジームからの脱却」、「美しい日本」などといった諸政策や言動に、極めて巧みな罠が仕掛けられ、その術中にはまってしまっている国民・世論があるように思われてならないのだ。第Ⅲ部におさめた講演録において、私は何度か「これは権力者たちの罠」だという語りを口にしている。本書の書名は、そうした思いから命名した。
そもそも「罠」とはなにか。一説には、「国民」の「民」とは、逃亡を防ぐために目を針で突いて目を見えなくした奴隷を表し、強者(=権力者)によって支配下におかれる人々の意味があるという。そして、「民」の上に「网」(網)が被さり、「罠」の文字が形成されたとされる、つまり、「罠」とは「网」と「民」との会意兼形声文字である。その意味で「罠」の意味するところは興味深い。
現在もなお権力者たちの罠が、国民(市民)に仕掛けられ、それが現時点では功を奏しているようだ。その意味で私たちは、安倍政権の「罠」がどこに仕掛けられ、その目的が何であるかを問い続けなくてはならない。そして、その「罠」から解放されるための議論と運動を、一層力強く進めていくことがますます求められているように思う。
四六判ソフトカバー・272ページ・定価=本体2,300円+税
ISBN978-4-7845-2404-4 2017年刊
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目次
はじめに 権力者たちの罠から解放されるために
第Ⅰ部 共謀罪で拍車かかる監視社会への道
1 監視社会化する日本
「夜警国家」から「警察国家」に
監視社会と国民動員
起動する国民監視・動員システム
戦争国家への四つの回路
軍事国家に適合する「国民」の養成
監視社会にどう向き合うのか
なぜ、いま監視社会なのか
過去に照らして未来を切りひらく
2 拍車かかる国民動員の現実 ─国民保護法を中心に
戦後版防諜法の登場
国民保護法制とはなにか
国民保護法の正体
国民保護法制の起点
国民保護法の内容
「国民保護のための法制の要旨」
国民保護法制の骨子と問題点
〝武力災害〟という概念の導入
「攻め」の立場
人為的行為としての戦争
拡大される「戦争」のカテゴリー
政府・防衛省の民間防衛の捉え方
「民間防衛」という名の国民動員・監視構想
戦前・戦後を通底する監視社会への道
国民保護法は「戦後版軍機保護法」
3 国民保護法から「共謀罪」へ
四度目の共謀罪国会上程
治安維持法の再来
侵される憲法の基本原理
監視社会に立ち向かう自由と人権
憲法九条の意味
ジャーナリズムの課題
戦後の平和と自由をあらためて問う
監視をめぐる権力
第Ⅱ部 自衛隊はどうなっているのか
1 統幕「内部文書」は何を語っているか ─露呈した自衛隊の軍事作戦計画
自衛隊の軍事作戦計画書
衛隊を知るうえでの貴重な重要文書
日米合同軍事機構の設置を目論む
政策選択に介入する統幕
機能不全に陥った文民統制の現状
政軍関係を厳しく問う機会に
2 〝新軍部〟の登場へ突き進むのか ─困難化する民主主義との共存
はじめに 自衛隊の〝国防軍〟構想
「国防軍」創設の背景
戦争に帰結した〈アジア・モンロー派〉
集団的自衛権の思想
顕在化する自衛隊制服組の台頭
現実味増す〝新軍部〟の成立
着々と進む文官と武官の対等化
改憲案を作成する陸自幹部
現行憲法を正面から否定
平和と民主主義を守るために
3 形骸化する文民統制のゆくえ ─跋扈する軍事主義の言動
「シビリアン・コントロール」の導入
戦前テクノクラートの変節と復権
軍事官僚と防衛官僚
文民と文官のあいだ
なぜ防衛官僚が文民統制の主体なのか
シビリアンとは誰のことか
ミリタリズムとデモクラシー
文民ミリタリスト
リベラリズムとミリタリズム
第Ⅲ部 安倍政権論と改憲問題
1 改憲から〝壊憲〟へ ─安倍政権の危険な位置
安倍政権再登場の影で
参議院補欠選挙に絡めて
民主主主義的専制国家の実態
安倍首相の政治手法について
第一次安倍内閣が実現したもの
歴史事実に向き合おうとしない安倍
不信をかう行為の向こうに
批判はアジアからだけではない
歴史認識問題と憲法改悪の絡み
戦争に明け暮れた近代日本を肯定するのか
護憲運動の踏ん張り
自民党の「憲法改正草案」を批判する
第九条をどうするのか
「国防軍」にする目的は何か
危険な内容満載の「草案」
自衛隊装備の現実
近代憲法を否定する「草案」の怖さ
平和の内実を検証する
日本は既に「参戦国」となっている
私たちの課題は何か
2 憲法不在の国を許せるのか ─改憲の真意を読み解く
短絡的なメディアと危険な歴史認識
いま、なぜ安倍政権か
対米従属路線からの脱皮志向
核武装による独立志向
憲法改悪の背景にあるもの
第一次安倍内閣の罪
国家による国家のための「草案」
歴史認識を語らない指導者
対米従属構造からの脱却を
3 平成の「非立憲」内閣を切る ─歴史から学ぶ共闘することの意義
戦後政治を否定する安倍政治
議会も国民も無視した寺内内閣
憲政常道論を説いた吉野作造
同盟関係が招く戦争
アメリカで台頭する沖合均衡論
日本は一カ月で核ミサイル保有国
憲法と安保法、深刻な矛盾
近代憲法を否定する自民党改憲案
選挙戦に臨んで ─「おわりに」にかえて
出馬動機の背景
野党三党との政策協定
安保法制廃止を求める会に集う
政見放送
選挙が終わって
著者紹介:纐纈厚(こうけつ・あつし)1951年生まれ。近現代政治軍事史・現代政治軍事論専攻。政治学博士。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。山口大学人文学部兼独立大学院東アジア研究科教授、山口大学理事・副学長(大学教育機構長)を歴任し、現在山口大学名誉教授。遼寧師範大学(中国)客員教授、開南大学(台湾)客員教授。東亜歴史文化学会会長などもつとめる。 近年の著作に『近代日本政軍関係の研究』(岩波書店、2005年)、『文民統制──自衛隊はどこへ行くのか』(岩波書店、2005年)、『監視社会の未来──共謀罪・国民保護法と戦時動員体制』(小学館、2007年)、『田中義一──総力戦国家の先導者』(芙蓉書房出版、2009年)、『「日本は支那をみくびりたり」──日中戦争とは何だったのか』(同時代社、2009年)、『私たちの戦争責任──「昭和」初期二〇年と「平成」期二〇年の歴史的考察』(凱風社、2009年)、『新版 総力戦体制研究──日本陸軍の国家総動員構想』(社会評論社、2010年)、『侵略戦争と総力戦』(同、2011年)、『領土問題と歴史認識』(スペース伽◯、2012年)、『日本降伏──迷走する戦争指導の果てに』(日本評論社、2013年)、『日本はなぜ戦争をやめられなかったのか──中心軸なき国家の矛盾』(社会評論社、2013年)、『反〝安倍式積極的平和主義〟論──歴史認識の再検証と私たちの戦争責任』(凱風社、2014年)、『集団的自衛権容認の深層──平和憲法をなきものにする狙いは何か』(日本評論社、2014年)、『暴走する自衛隊』(ちくま新書、2016年)などがある。