添田唖蝉坊(1872-1944)が、明治大正の時代に貧困と隣りあわせにいた人たちを描いた「演歌」の歌詞55作品を収め、さらに研究者による評論をミックスした『演歌の明治ン大正テキヤ』が出来上がりました。現代のラップにも通じる「演歌」の魅力をお楽しみいただけます。
演歌の明治ン 大正テキヤ
フレーズ名人・添田唖蝉坊作品と社会
社会評論社編集部/編
添田唖蝉坊/詞
中村敦・白鳥博康・吉﨑雅規・厚香苗・和田崇/寄稿
定価=本体1800円+税 ISBN978-4-7845-1917-0
「縁日」の記憶と、大震災前の「古い東京」
添田唖蝉坊の演歌を読んでゆくと、昔の東京を想像させる歌詞がいろいろと現れます。これらの歌詞が歌われたのが「縁日」といいます。かつてさかんに行われていた縁日に、添田唖蝉坊の作った演歌を唄って商売をする人たちがいました。彼らを「演歌師」と呼んでいました。
1923年9月1日に起きた関東大震災が起きる頃まで、縁日や大道で活躍していた演歌師たちですが、レコードやラジオが世の中に広まるにつれて、しだいに姿を消していきます。
その演歌師という仕事を文化史として記録した人が、添田唖蝉坊の息子であり、演歌師でもあった添田知道(1902-1980)です。二人は神奈川に縁があることから、「添田唖蝉坊・知道文庫」として多くの貴重な資料が神奈川近代文学館に保存されています。
昔のフレーズが新鮮に感じる不思議
歌詞を読み進めることが基本テーマの本書。できあがって一番に困っていることは、この本のジャンルです。営業や問屋の方に「この本を置く棚はどこでしょう?」という問い合わせを受け、編集部はうまく答えられませんでした‥‥。今月から書店や図書館の担当者様の目にも触れる機会ができましたので、同じ問い合わせをいただいてしまいそうです。
添田唖蝉坊・知道の演歌をご存じの方から、「『貧困』の棚でもいいかもしれないよ。当時のそうした立場の人たちを唄ったのが多いだろう?」とアドバイスを下さいました。なるほど、編集部は賛成です。
本来はメロディがある歌詞ですが、それを知らなくとも、歌詞を読むだけでも明治大正の頃へタイムスリップするような気持ちになります。
歌詞の文面から受ける印象は、決して明るい歌だけではありません。今に通じる悲しみや切なさを描いたものが多いかもしれません。
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