口上
「金々節」という歌があります。1925年頃の歌といいます。もちろんおカネのことを唄っています。値段は出て来ませんが、社会にひしめく金の恨み辛みがこれでもかと続きます。
歌詞の大半は金という字で埋め尽くされています。本書6ページをめくって見て下さい。作詞者はよほど金という字を書くのが上達しただろうと思われます。ボクは下手のままで結構です。
作詞者の名は添田啞蟬坊といいます。本名ではありません。仕事で使った名前なのだそうです。お察しの通り、この本の主役です。この本はいわば啞蟬坊氏の歌詞で埋め尽くされています。その多くはインターネットに歌唱動画があるので聞けます。ボクは小沢昭一さんの唄う「金々節」が特に好きです。なぜなら、恨み辛みをとっても明るく唄うからです。
ただし、歌詞には昔の固有名詞や言い回しがたくさん出て来ます。日本語ですから外国語の歌詞よりは読めますが、意味をつかむのは大変です。
目で追ってゆくと、だんだん金の多さが気にならなくなるのです。金よりむしろ分からないことの多さを、90年前の歌詞からボクらは知ります。この心構えで他の詞も読んでみて下さい。まずは分からないことを知りましょう。
社会評論社・編集部
演歌の明治ン 大正テキヤ フレーズ名人・添田唖蝉坊作品と社会 社会評論社編集部/編 添田唖蝉坊/詞 中村敦・白鳥博康・吉﨑雅規・厚香苗・和田崇/寄稿 定価=本体1800円+税 ISBN978-4-7845-1917-0 2016年8月刊
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収録演歌詞
社会党ラッパ節 トコトットット…
喇叭節(ラッパ節) 蟇口拾つて喜んで につこと笑ふてよく見たら…
四季の歌(春は嬉しや) チョイト 覚悟の厚化粧…
ストトン節 ストトンストトン …
ヘナチョコ節 ステキメッポーヘナチョコだ…
現代節 アラ ほんとに 現代的だわネ …
当世字引歌 「空前絶後」とは「タビタビアルコト」…
東京節(パイノパイ) ラメチャンタラギッチョンチョンデパイノパイノパイ…
新鴨緑江節 貧乏人に面あてのアノ花が咲く…
新馬鹿の唄(ハテナソング) ハテナ ハテナ…
ソレたのむ(新梅ヶ枝節) その時ゃ極楽へ ソレたのむ…
ディアボロ替唄 お金ある人 お酒のみふける お金ない人 水ものめぬ …
あゝわからない(上の巻) 今の浮世はわからない…
あゝわからない(下の巻) 欲張る心がわからない どう考へてもわからない…
あきらめ節 わが身の不運と あきらめる…
新わからない節 どこまで行ってもわからない…
新安来節 みんな世間のアラばかり…
へんな心(リゴレット・女心替唄) さがるよ あ………あ、さがるよ…
新トンヤレ節 トコトンヤレトンヤレナ…
青島節(ナッチョラン) ぼくも二三度だまされた…
平和節 パリコトパナナデ フライフライフライ…
ストライキ節 サリトハツライネ テナコトオッシャイマシタネ…
あゝ無情 おぢさん隠して下さいな…
新磯節 わたしゃ あなたの 心まかせに…
袖しぐれ 桐の一葉に秋ぞ来て 早二月も過ぎ去りぬ…
奈良丸くづし さゝやさゝさゝ笹や笹…
どこいとやせぬカマヤセヌ節 お前と添ふてから一枚の…
むらさき節 散れく散るならさっと散れ チョイトネ…
思ひ草 涙かくして表面で笑ひ…
ホットイテ節 キタサー わたしがサー…
虱の旅 ゾロリゾロリと 匐ひ行く先は…
サァサ事だよ シマッタシマッタ…
あゝ金の世 あゝ金の世や金の世や…
ゼーゼー節 ナンギナモンダネ トツアッセー…
ベラボーの唄 ハ、ハ、ハ、ハ、…
豆粕ソング 高い日本米はおいらにゃ食へぬ …
イキテルソング 生きたガイコツが踊るよ踊る…
生活戦線異状あり 俺の目は凹んだをかしいぞ ヨワッタネ…
新ノーエ節 上野の山からノーエ…
調査節 ネーあなた 調査々々…
金々節 金だ金々 此世は金だ…
つばめ節 金をためるな イソイソ ためるな金を…
貧乏小唄 どうせ二人は この世では…
ノンキ節 それもさうかと思ふげな ア、ノンキだね…
ブラブラ節 なってまたおめでたく ブーラブラ…
労働問題の歌 労働問題研究せ 研究せ…
解放節 イントレランスだ 解放せ…
職業婦人の歌 男たよつてゐる女子には こんな気持はサわかるまい…
あゝ踏切番 死なんの覚悟誰か知る…
これも商売 こんな気持は サ わかるまい …
マックロ節 けむりでトンネルは マックロケノケ…
隠亡小唄 人の価値に 何変ろ…
地震小唄 生きたい心に何変わろ…
復興節 帝都復興 エーゾエーゾ…
コノサイソング コノサイ流行 エーゾエーゾ…
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進め新体制
専門家による社会的分析を収録!
❶ 明治生まれのストリート・シンガー二代
中村敦(神奈川近代文学館展示課主査)
❷ 肖像の装いから
白鳥博康(服飾研究家)
❸ モダン伊勢佐木を歩く
吉﨑雅規(横浜市歴史博物館学芸員)
❹ 明治・大正・昭和の香具師とテキヤと露天商
厚香苗(立教大学兼任講師)
❺ 啞蟬坊の演歌と替歌の連鎖
和田崇(三重大学教育学部国語教育講座講師)
※所属先は掲載時のものです。
演歌隆盛当時の記事を翻刻!
時代の片影 新流行歌の変遷
添田啞蟬坊
☆出典 添田啞蟬坊著『啞蟬坊新流行歌集』(大正5(1916)年、臥龍窟発行、山口屋書店発売)所収
路傍の流行唄
谷人生
☆出典 『文藝倶楽部』19巻13号 大正2年(1913)10月1日号(博文館)掲載
資料について 大正五年(1916)に発行された『啞蟬坊新流行歌集』は、冒頭に堺利彦はじめ十五人の祝辞のあと、この資料①「時代の片影 新流行歌の変遷」が続きます。演歌文化を担った当人が説く文章は実にわかりやすく説得力があります。 資料②「路傍の流行唄」(谷人生・筆)は、大正年代はじめの演歌師が縁日で活躍していた頃に書かれたルポルタージュです。少々啞蟬坊びいきの感がいなめませんが、当時の様子がわかる内容です。 演歌師が時代とともに社会的役割を変えて行く様子をどうぞ。
コラム
東京市電とストライキ/電車の乗り方
演歌師と縁日と
演歌師と芸能者的こころと
★巻末の「付記」では、1980年3月になくなった添田知道氏を偲んで発行された野沢あぐむ編『月刊歌謡曲史研究』臨時増刊「追悼号 添田知道 演歌の世界」の紙面見出しをすべて掲載!!
配信限定リリース
*啞蟬坊の演歌 と替歌の連鎖
和田崇 著
添田啞蟬坊の歌から見える日本社会。今も通底する問題を文学研究の視点から分析した論考。社会評論社編集部『演歌の明治ン大正テキヤ』(2016年刊)収録論考より配信限定リリース。
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