現代における〈社会主義と宗教との共振〉について多面的に考察 ──村岡 到/著『「創共協定」とは何だったのか ─社会主義と宗教との共振』

村岡 到/著『「創共協定」とは何だったのか ─社会主義と宗教との共振』 (SQ選書14)を刊行します。まえがき、目次の詳細です。

まえがき

今年一〇月二二日投開票の総選挙の結果は、自民党と公明党の与党が三分の二を超えることになった。平和を願い、憲法の理念にそって社会的格差の解消と弱者に優しい社会をめざして活動してきた人たちの全てが、とくに年配の世代の人たちは真剣に反省しなくてはいけない。この残念な事態の到来を、他者の責任にしたり、他者批判にのめり込むのではなく、自らがこれまで何を為してきたのか、何を明らかにしてきたのかを真面目に総括することこそが求められている。自分の活動のどこに欠陥があったのかを探り、その理論的根拠が何なのかを切開する必要がある。

私は、昨年秋に『ソ連邦の崩壊と社会主義』(ロゴス)を著し、今年夏に編著『ロシア革命の再審と社会主義』(ロゴス)を刊行した。ロシア革命一〇〇年を記念したものである。後者に収録した下斗米伸夫氏の論文は、これまで知られていなかった「古儀式派」の存在をクローズアップしたもので、ロシア革命において宗教が大きな位置を占めていたことを明らかにした。私は、改めて〈社会主義と宗教〉について深く考える必要があると痛感した。

一九六四年に創成された公明党は「人間性社会主義」を長く唱えていた。公明党創設者の池田大作氏は、共産党のトップ宮本顕治との対談で「宗教とマルキシズムの共存は文明的課題だ」とまで語っていた。彼が主導して一九七四年に結ばれた「創共協定」とは何だったのか。

マルクスの「宗教はアヘンだ」という非難とそれを援用したレーニンによる宗教排斥によって、ほとんどの左翼は宗教を敵視してきたが、宗教は深く社会に根付いており、〈社会主義と宗教との共振〉こそが強く求められている。これが本書のテーマである。このテーマを探究することは、前記した左翼の深刻な反省の不可欠の一環だと、私は確信している。非才な人間が為しうることは、人類が直面している多くの難題のごく一部を探究することでしかない。それゆえ、選択した課題については確固たる内実を提起しなくてはならない。

本書には新しく書いた三つの論文を軸にして、一三年前から書いてきたいくつかの関連する論文も収録した。それなりに時を要して考察してきた成果である。さらに特別付録として山田太一さんから頂戴したお手紙を再度掲載させていただいた。大きな励みとなってきた、私にとって貴重な宝だからである。

収録した論文の一つで取り上げた親鸞は八〇〇年も前に、印刷機も電話もない時代に、流刑と貧窮のなかで、人間の平等を基軸にした信念を辻説法で貫き通した。その信念が今日にも伝わり広がっている。不遜は承知のうえで一歩でも二歩でも、その生き方に連なりたいと願う。

なお深く探究しなくてはならない課題が多く残されているが、広く検討してほしいと切望する。

二〇一七年一〇月二四日

村岡 到


目次


まえがき

「創共協定」の歴史的意義とその顛末

1 「創共協定」締結の経緯
2 当時の歴史的背景 
3 二つの組織の首脳部の真剣な努力の意義
4 「宗教決議」の検討
5 共産党における宗教認識の後退
6 「天に唾する」『日本共産党の八十年』の総括
むすび

社会主義と宗教との共振

1 宗教の大きな位置
2 論文「宗教と社会主義」(二〇〇五年)の到達点
3 蔵原惟人の宗教理解の深さ
4 社会主義と宗教との共振

愛と社会主義──マルクスとフロムを超えて

1 〈愛〉の大切さ
2 〈愛〉は「交換」できるのか
3 〈愛ある労働〉
4 資本制社会では〈愛〉は例外か
5 梅本克己の主体性論
6 〈愛〉と社会主義との調和
〈付〉 行ないと知恵──タルムードの世界に学ぶ

宗教と社会主義──ロシア革命での経験

1 「けんしん主義」?
2 ルナチャルスキーと宗教
3 問題の今日性

戦前における宗教者の闘い

1 治安維持法などで大弾圧された大本教
2 妹尾義郎と新興仏教青年同盟の闘い
3 日本共産党と宗教問題
4 中間的むすび

親鸞を通して分かること

 はじめに
1 親鸞から学ぶもの
A 親鸞の教え
B 親鸞の生活と親鸞が対面した人びと
2 「真俗二諦」論の罪功
3 今日の問題
A 人間と歴史をどう捉えるか
B 宗教と政治
C 資本主義と社会主義──五木寛之の認識を手がかりに

社会主義への政治経済文化的接近を

はじめに──或る反省
1 「まず政治権力を獲得」論への疑問
2 社会主義への政治経済文化的接近
3 社会主義をめざす政党のあるべき姿
付録
変革は時間がかかっても武力ぬきで──山田太一脚本「遠い国から来た男」を観て
特別寄稿 村岡到さんへの手紙 山田太一
コラム
1 「私から先に撃って」と叫ぶアーミッシュの少女
2 梅本克己さんとの出会い
3 「一辺倒」に陥らぬように──仏教は教える
4 小林多喜二の母とイエス・キリスト

あとがき


村岡 到(むらおか いたる)
1943年4月6日生まれ
1962年 新潟県立長岡高校卒業
1963年 東京大学医学部付属病院分院に勤務(1975年に失職)
1969年 10・21闘争で逮捕・有罪
1980年 政治グループ稲妻を創成(1996年に解散)
NPO法人日本針路研究所理事長
季刊『フラタニティ』編集長

村岡 到/著
「創共協定」とは何だったのか
社会主義と宗教との共振

SQ選書14
四六判並製・192頁 定価=本体1,700円+税
ISBN978-4-7845-1847-0

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投稿者: 社会評論社 サイト

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