原文テキストの緻密な読みから、
『資本論』の難問を解く重厚な考察。
本年一番の大著が出来上がりました! 井上康、崎山政毅/著『マルクスと商品語』を刊行です。以下、目次詳細を掲載します。
内容概説
本書の目的は、『資本論』冒頭商品論の解読であり、それを第二版以降に述べられる「商品語」という概念に焦点をあてたうえで遂行するものである。
「商品語」という一般には聞きなれない用語について、人間語と対照させて、そのおおよその輪郭を明らかにしたのが、第一部であり、本書の序論に当たる。
第二部は本論である。『資本論』冒頭商品論をまったく新たな視点から捉え、従来の解読を刷新することを目指した。従来流布していたほとんどすべての読みを覆し、『資本論』冒頭商品論の精確な読解をなせた、と自負している。
第三部は補論というべきものである。第三部草稿まで含めた『資本論』全体を踏まえて、今日の資本主義を批判するという課題は今後のものであり、そのための準備作業に相当する。現時点でわれわれが把握・研究・分析をなしえた上で叙述可能なことどもを、できるかぎり直截的に述べた。そこでの鍵となるのは、架空資本の概念である。マルクスによるこの概念を復権させ、その新たな内容展開を目指していきたいと、われわれは考えている。そのため、架空資本の運動について、われわれの研究と分析が今現在可能なかぎりでの内容を、本書第三部で提示したつもりである。
本書は、今日の資本主義を全面的かつ批判的にとらえ、人間のあるべき未来に向かう力のありようを明確に打ち出すまでに、残念ながらいたってはいない。未だ途なかばと言い換えてもよい。新たな地平を切り拓くには、マルクスが求めた「なにか新しいものを学ぼうとし、したがってまた自分自身で考えようとする人
びと」を、われわれもまた必要としている。その意味で、本書が志を同じくする仲間との出会いの場となり、変革の契機たらんことを願うばかりである。
※本書「はしがき」より抜粋
♦著 者 略 歴
井上 康(いのうえ・やすし):1948年生。京都大学工学部・教育学部卒、同大学院教育学研究科博士後期課程退学。予備校講師など。
崎山 政毅(さきやま・まさき):1961年生。京都大学理学部卒、同大学院農学研究科後期博士課程退学。立命館大学教員。
目 次 詳 細
はしがき
第Ⅰ部
第Ⅰ章 『資本論』冒頭商品論理解の鍵としての商品語
第Ⅱ章 人間語の世界に対する限りでの商品語の〈場〉
第ⅰ節・・・人間語の世界の諸特徴 第ⅱ節・・・人間語の世界のモデル化 第ⅲ節・・・〈分析哲学的言語観とそれへの直観的違和・批判〉への批判 第ⅳ節・・・ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン、ジャック・デリダ、ヴァルター・ベンヤミンの各言語観について 第ⅴ節・・・商品語の〈場〉の諸特徴
第Ⅱ部
第Ⅲ章 人間語による分析世界としての『資本論』第二版第1章第1節および初版・フランス語版当該部分の比較対照による解読
第ⅰ節・・・冒頭商品論に対する分析・解読作業の諸前提 第ⅱ節・・・〈富─価値─商品〉というトリアーデ 第ⅲ節・・・パラグラフ①および②の検討 第ⅳ節・・・パラグラフ③の検討 第ⅴ節・・・パラグラフ④の検討 第ⅵ節・・・パラグラフ⑤の検討 第ⅶ節・・・「共通なもの」=価値、「第三のもの」=商品に表わされた抽象的人間労働 第ⅷ節・・・初版のパラグラフ⑥~⑨の検討 第ⅸ節・・・第二版・フランス語版のパラグラフ⑥、⑦の検討 第ⅹ節・・・第二版・フランス語版のパラグラフ⑧、⑨の検討 第xi節・・・〈価値─価値実体〉概念の一定の定立
第Ⅳ章 商品語の〈場〉─価値形態
第ⅰ節・・・商品をつくる労働の特殊歴史的規定性について 第ⅱ節・・・初版本文、初版付録、および第二版のそれぞれの価値形態論 第ⅲ節・・・価値形態論の枠組 第ⅳ節・・・価値表現において諸商品は何をどんな風に語るか 第ⅴ節・・・〈自然的規定性の抽象化〉過程に関して 第ⅵ節・・・〈私的労働の社会化〉過程に関して 第ⅶ節・・・価値の実体と等価形態の謎性 第ⅷ節・・・初版本文価値形態論の形態Ⅱに関して 第ⅸ節・・・初版本文価値形態論の形態Ⅲに関して 第ⅹ節・・・〈価値─価値実体〉概念の十全な定立 第xi節・・・初版本文価値形態論の形態Ⅳに関して
第Ⅴ章 なぜ、第二版は初版本文の形態Ⅳを捨て貨幣形態を形態Ⅳとしたのか
第Ⅵ章 価値形態論と交換過程論との関係について
第ⅰ節・・・冒頭商品論と交換過程論 第ⅱ節・・・価値形態論に対するかぎりでの交換過程論 第ⅲ節・・・あらためて価値形態論と交換過程論との相違について 第ⅳ節・・・貨幣の商品語
第Ⅶ章 〈富─価値─商品〉への根源的批判
第ⅰ節・・・〈富─価値─商品〉への批判、労働価値説批判としての経済学批判 第ⅱ節・・・商品価値と従来の諸価値 第ⅲ節・・・今日の《商品〈場〉─商品語の〈場〉》に対する根源的批判を深めるために
第Ⅲ部
第Ⅷ章 今日の資本主義を批判するために
第ⅰ節 資本の運動と資本物神 第ⅱ節 利子生み資本形態をとって運動する厖大な架空資本 第ⅲ節 資本の商品語 第ⅳ節 架空資本の新たな運動について 第ⅴ節 イスラーム金融は資本主義のオルタナティヴたりうるか
第Ⅸ章 『資本論』冒頭商品論に関するさまざまな所説について
第ⅰ節 ハンス-ゲオルク・バックハウスの問題提起、およびそれをめぐる議論について 第ⅱ節 久留間鮫造の所説について─〈宇野─久留間〉論争を軸に 第ⅲ節 榎原均『価値形態・物象化・物神性』について 第ⅳ節 佐々木隆治『マルクスの物象化論』について 第ⅴ節 正木八郎の所説について 第ⅵ節 『資本論を読む Lire le Capital』における冒頭商品論解釈について(ジャック・ランシエールおよびピエール・マシュレーの所説について) 第ⅶ節 ジャック・デリダの商品物神性論理解について 第ⅷ節 デイヴィッド・ハーヴェイ『『資本論』読解必携 A Companion to Marx’s Capital』について 第ⅸ節 フレドリック・ジェイムソン『『資本論』を再現前化する Representing Capital: A Reading of Volume One 』について 第ⅹ節 吉沢英成『貨幣と象徴』、および塩沢由典『近代経済学の反省』について 第xi節 柄谷行人の所説について 第xii節 岩井克人『貨幣論』について 『資本論』初版(ドイツ語)、同第二版(ドイツ語)、同フランス語版各冒頭商品論出だし部分の対照表と各邦訳
あとがき
参照文献
人名索引
事項索引
マルクスと商品語
井上康、崎山政毅/著
A5判上製本・584頁 定価=本体6,500円+税
ISBN978-4-7845-1846-3
諸個人─諸言語は地域や国家、また文化や社会によって規定され束縛されている。それに対して、商品─商品語は、諸個人─諸言語よりもはるかに「自由」に全世界を徘徊している。つまり商品は、地域的・国家的・社会的・文化的諸障壁を打ち壊す「重砲」(『共産党宣言』)であり、商品語はその見事な響きなのである。
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