[レポート]手作業の製本現場 ─ 東和製本株式会社(埼玉・南鳩ヶ谷)

「本の文化」って誰かが言ってました。それって何だろう。なじみ深いものだけど、よくよくは知らないことが多いもの。今回は本というモノを作る仕事、製本所を訪ねまして、作業工程を聞いて参りましたのでご報告いたします。 (2017年12月13日配信記事)

埼玉県川口市南鳩ヶ谷に工場(こうば)をかまえます東和製本株式会社。もともとは東京の赤羽ではじまりまして、かれこれ40年立つ製本所。そこへ2017年も押しせまる12月にお訪ねをしまして、本作りのロードマップ、工程現場を見て参りました。

製本工程

ここ東和製本所は印刷会社などから本の材料となる印刷物を受け取ります。本の要となります中身(本文)のもとは「スリホン(刷本)」(オリホン(折り本))と呼ばれます。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
スリホンが届いたようす。(東和製本 撮影・板垣)

本文が刷られた大きい紙をスリホンにしなければなりません。その作業は「オリ(折り)」と呼ばれまして、専属の「折り屋」「折り本屋」が担当。写真は、外注先の折り屋さんから運ばれてきたようすです。

このオリホンは1つが16ページ。16ページの本はめったにないわけで、たいてい100ページくらいは欲しいもの。実はオリホンに付けられた通し番号順にならべますとアラ不思議! 100ページの本の中身(本文)が出来上がる。オリホンを順番に整理する作業は「チョウアイ(丁合い)」。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
シタガタメ専用機(東和製本 撮影・板垣)

順番になったオリホンの束を、今度はぎゅ~っと空気を出すようにタイトな束にさせます。「シタガタメ(下固め)」というこの作業に使われる機械の登場です。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
シタガタメ専用機(東和製本 撮影・板垣)

シタガタメ機にオリホンの量が足りない時は、代用の紙をかませる。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
シタガタメ専用機(東和製本 撮影・板垣)

オリホンの両脇には出っ張りのある「ツノイタ(角板)」。これに鉄の枠をはめて、ぎゅ~っと、さらにぎゅぎゅ~っと締めつける。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
ツノイタの棚(東和製本 撮影・板垣)

棚にはツノイタのストックが並べられています。

さて、ぎゅ~とやった束ですが、本の背にあたる面に今度は糊をつけます。半日くらい乾燥を待ちまして、メスを使って1冊分ごとに仕分ける作業に続きます。ここで本の中身(本文)がおおかた出来上がります。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
三方断裁機(東和製本 撮影・板垣)

オリホンは、印刷所が刷った大きな紙を本のサイズにそって折り込んだものですので、実は余白が残っています。これが四角い紙面の3面(三方向)に残っています。「サンポウダンサイキ(三方断裁機)」は、その余計な部分をカットするための機械。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
バッケ・バキングの専用機(和製本 撮影・板垣)

上製本(ハードカバー)の背表紙は丸みのあるもの(「マルゼ(丸背)」:銀杏の葉を横から見た時のような自然なカーブ)と、直角に平らなもの(「カクゼ(角背)」とがあります。丸みのある背表紙を作るための作業を「バッケ」「バキング」と呼ぶそうです。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
ニカワの入った入れ物(東和製本 撮影・板垣)

本を何度開いてもいいようにする作業が製本所の腕の見せ所。ニカワもそうした作業に使われる材料。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
表紙の束(東和製本 撮影・板垣)

本のカバーをはずすと、もう1つ地味目のカバーであります表紙。上製本には段ボール紙などで作る厚手の表紙が使われます。これはこれで表紙を貼る表紙張り業者から出来たものを東和製本では受け取ります。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
表紙の束(東和製本 撮影・板垣)
東和製本 撮影・板垣誠一郎
イチョウ作業機(東和製本 撮影・板垣)

本文と表紙とをくっつける作業「イチョウ(銀杏)」は、100~200度にもなる電熱でもって接着させます。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
表紙と本文とのあいだにある見返しのようす(東和製本 撮影・板垣)

表紙と本文とのあいだにもう1枚「見返し」と呼ぶ仕切り紙が入ります。ここでも本の強度を保つ技術が必要とされます。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
プレス機(東和製本 撮影・板垣)

完成したようでも手が抜けない。表紙と本文がいっしょになった状態で、さらにもう1度プレス。

東和製本 撮影・板垣誠一郎
糊の入った容器とハケ(東和製本 撮影・板垣)
東和製本 撮影・板垣誠一郎
カバーかけの作業(東和製本 撮影・板垣)

プレスして落ち着いた本に、最後の仕上げとなるカバーをかけて行きます。カバーによっては1ミリでもずれると台無しになるものです。人の手で丁寧に1枚1枚、1点1点に集中する作業。最後まで感性が問われます。

東和製本 株式会社

東和製本は、鈴木健一氏が1977年に創業。当時の工場は、東京・赤羽の自宅と同じ敷地にありました。幼少時代から本作りの現場を身近にみてきた鈴木隆之さんは、自然と会社を手伝いながら一度は業界大手で経験を積み、あらためて先代のあとにつきます。本作りの感覚を磨いてながら、10年前の2007年より、父である先代より看板を受け継ぎました。

工場に点在する年季の入った専用機たちには、どこか温もりを感じます。コンピュータ制御ではないので、40年立った今も微調整を続けながら現役で活躍してくれるとの説明を聞くと、大きな図体の作業機に親近感が湧くからでしょうか。

こうした専用の作業機たちは技術開発によって1つのマシンになっているそうです。オペレーターが操作して行うオートメーションによる製本作業は相応の部数を想定して行われます。

東和製本が続ける手作業の本作りは、500部以下の少部数製本を得意とします。小回りのきく手作業の工場ならではのメリットがあります。

例えば、愛用する手持ちの辞書を修復する相談にも応じるそうです(実際にそうした注文はまだ来ないそうです‥‥)。研究の造本にはハードカバー、上製本というこだわりを持ちたい人もいる。

古書店街を訪れたり、新刊書店で本を手にする時に、製本技術の良し悪しがどうしても気になるそうです。本というモノを作る人と本屋を訪ねてみたら見方が違って面白そうですね。

東和製本 株式会社
代表取締役 鈴木隆之
〒334-0013 埼玉県川口市南鳩ヶ谷7-39-17
電話 048(299)4407 
FAX 048(299)4408

その昔、とってもページ数のある小説の本を分解して、小分けの1つを持って通勤電車に乗ったことがありました。軽量化され、先も見えている分量なのに、何か判らない後悔を感じました。それを人に話すと、「君は大切なものを見落としたね」といわれました。

東和製本で製本過程を見た帰り道、そのことを思い出しました。その当時のぼくは、人が作ったものを壊していたことに思い至りませんでした。壊しておいてどうしてその小説が読めるでしょうか‥‥。

機械の息づかいすら感じる現場に来て、あらためて本というモノを味わい深く考えます。

「本の文化」って何だろう。今だからこそ、考えたいと思うのです。

文責・板垣誠一郎 取材協力・鈴木隆之

投稿者: 社会評論社 サイト

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