河西勝/著『宇野理論と現代株式会社─法人企業四百年ものがたり─』が2017年12月刊行になりました。著者からのメッセージと目次の詳細を紹介します。
An Unoist Theory and the Modern Corporation
The Story of 400 Years of the Corporate Enterprise
株式会社論の展開を基軸に一次大戦以後の世界分析の方法論的視座を検証し、宇野経済学における三段階論の今日的復活を試みる。
宇 野 理 論 と 現 代 株 式 会 社
─法人企業四百年ものがたり─
河西勝/著
定価=本体2,700円+税 A5判ソフトカバー422頁
ISBN978-4-7845-1850-0
著者メッセージ
かつて一次大戦以後のドイツで大論争があり、日本でも大いに議論されたラーテナウの「企業それ自体」といった研究テーマは、宇野三段階論によってのみ豊かな成果を望めるというわたくしの確信は、1950、60年代、70年代に盛んに論じられた宇野理論がしぼみ始めた1980年代にまでさかのぼります。
定年退職してから同期と交流して刺激を受ける自由の時間もあり、古希記念誌で「公約」したことにも圧迫されて、現役中のわずかな論文を含めて、研究を一本の著作にまとめる構想ができましたが、現在の形が完全に出来上がるまでにはなお紆余曲折がありました。
ある時、同級で読書家のNさんが広く話題になっているピケテイの『21世紀の資本』を私に読むように使嗾してくれたことが、大きな転機になりました。ピケテイの著書は、今日では一般的には肯定的に評価されることがほとんどない宇野理論に方法上極めて近接していると感じたからです。
ピケテイのいう一次大戦以後の「経営者社会」の紹介を中心にして「序章 三段階論という宿命」を作成し、予定されていた「日本資本主義論争」の章を没にし、「コーポレート・ガバナンス論争」の章に置き換え、また新しく「第9章イギリス産業資本家の安楽死」(ピケテイは資本の「安楽死」を学説上、初めて話題にした)を付け加えました。これによって「法人企業四百年」の歴史を宇野理論によって総括するという課題が割合スムーズに消化されることになったと思っています。
「純粋資本主義」の再定義をつうじて、アメリカ流の現代ミクロ・マクロ経済学を(海外流を日本型に鋳なおすことが得意な)日本文明に根ざす三段階構成の現代経済学に置き換える。
本書のこのような展望・野望が永遠の夢ものがたりに終わるかどうかは、今となっては読者の評価に任せる以外にはないわけですが、ともあれ、少なくとも、株式会社、宇野理論、金融論、経済学のいずれの入門書としても、それなりに適切なものになっていると自負しています。
目次
序章 三段階論という宿命
一 ピケティと宇野の対話 二 「経営者社会」の現状分析 三 「企業それ自体」論争 四 宇野理論の生誕
第1章 「純粋資本主義」の再定義
一 近代国家の成立と資本家的企業 二 資本家的企業の原理的展開 三 「純粋資本主義」と経済原則 四 株式会社と「純粋資本主義」
第2章 鉄道資本主義の隆盛
一 19世紀中葉の公益事業株式会社 二 南海会社と軍事財政国家 三 産業企業の所有とコントロール 四 鉄道会社の所有とコントロール
第3章 レッセフェール金融システム
一 専門化銀行とユニバーサル化銀行 二 株式銀行の流動性リスク管理 三 ベルリン証券取引所 四 ロンドン証券取引所
第4章 イギリスの株式会社―1880 ~ 1914―
一 代理人の制度 二 投資家の多角化投資戦略 三 株式証券市場の機能 四 株式ブロック保有者の成長
第5章 ドイツの株式会社―1880 ~ 1914―
一 代理人の制度 二 兼任役員会制度と投資バンキング 三 投資バンキングとベルリン証券取引所 四 イノベーションと金融システム
第6章 「企業それ自体」論争
一 ラーテナウとヒットラー 二 ハウスマンのラーテナウ批判 三 ネッターのラーテナウ批判 四 ケインズの問題提起
第7章 「企業それ自体」の現状分析
一 「企業それ自体」の社会的役割 二 「公共機関主義的」株式会社 三 ハウスマンの法人所得税論議 四 レッセフェール金融システムの終わり
第8章 ドイツ甜菜糖業の危機
一 レッセフェール世界砂糖市場の発展 二 ドイツ糖業危機と世界政治経済 三 ドイツ糖業の危機管理 四 ヒルファーデングの三段階論
第9章 イギリス産業資本家の安楽死
一 福祉国家への道 二 大戦間期のロンドン証券取引所 三 配当政策にみる代理人制度の崩壊 四 ブロック株保有者の「安楽死」
第10章 分離法人課税と経営者支配
一 「剣から楯へ」 二 経営者の支配 三 バーナムの三段階論 四 協働型コモンズへ
第11章 コーポレート・ガバナンス論争
一 経営者支配と機関投資家 二 分岐するガバナンス・システム 三 LBOアソシエイション 四 公開会社の失墜
第12章 世界政治と世界経済
一 ベルサイユ・ワシントン体制 二 両条約体制の崩壊と二次大戦 三 ブレトンウッズ体制 四 ブレトンウッズⅡ体制 五 小括:「社会の超越的性格」
あとがき
引用参照文献
和書参照引用文献
著者経歴
河西勝(かさい・まさる)1942年(昭和17年)長野県諏訪市北沢(旧・現岡村)に生まれる。1958年(昭和33年)3月~ 1961年(昭和36年)3月 諏訪清陵高等学校在学。1961年(昭和36年)4月~ 1966年(昭和41年)3月 北大(教養部理類、農学部)在学。1966年(昭和41年)4月~ 1968年(昭和43年)3月 北大大学院農経学科修士課程在学。1968年(昭和43年)4月~ 1970年(昭和45年)3月 専修大学美唄農工短期大学在籍。1970年(昭和45年)4月~ 1972年(昭和47年)3月 北大経済学研究科博士課程在学。1972年(昭和47年)4月~ 1975年(昭和50年)3月 北大経済学部在籍(助手)。1975年(昭和50年)4月~ 2011年(平成23年)3月 北海学園大学経済学部在籍。1989年(平成1年)10月~ 1990年(平成2年)9月 イギリス・ワーリック大学客員研究員。2000年9月 北海道大学博士(農業市場論)「第一次大戦前における小麦・砂糖世界市場の発展とドイツ農業の生産力形成」
共著 『資本論を学ぶⅤ』有斐閣(1977)/『経済学原理論』社会評論社(1979)/『宇野弘蔵の世界』有斐閣(1985)
編著 『日本資本主義論争Ⅱ;世界農業問題の構造化』社会評論社(1990)
単著 『農業資本主義―その論理と歴史―』世界書院(1992)『企業の本質―宇野原論の抜本的改正―』共同文化社(2009)
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