今なぜ、賢い医療消費者にならなければならないのか?
賢い医療消費者(Smart Helthcare Consumer)とは、できるだけ健康を保持増進できるようにするための保健や健康に関する知識を身に付け、理解し、納得し、実践できる能力を身に付けており、最も質の高いサービスをできるだけ低価格で購入し、損な買い物をしない消費者のことです。毎日の疲れを出来るだけ残さないよう、十分な睡眠や休養をとり、自身の心身の状態を十分に把握し、心身を癒してあげる、すなわちセルフヒーリング能力(Ability of Self-Healing)を保持している人々が賢い医療消費者と言えるでしょう。
また、いざ自分自身や家族が病気や要介護状態になった際に、医療や介護に関するある程度の知識を持ち、質の高い医療や介護サービスを受け、ストレスに対処し、病気と向き合い、闘うことができる能力、つまり高いセルフケア能力(Ability of Self-Care)を身に付けている人々が賢い医療消費者と言えるでしょう。
更に、適宜薬局などのサプリメントや薬を上手に活用し、自分の心身をできるだけ最高の状態に戻すための能力すなわちセルフメディケーション能力(Ability of Self-Medication)を身に付けるために必要と思われる知識や情報を習得することはあらゆる世代の人々にとって今後より重要になってくると思われます。セルフケア(Self-Care)は、セルフヒーリング(Self-Healing)やセルフメディケーション(Self-Medication)も包含した概念ともとらえることができます。このような各能力を兼ね備えている人々が、賢い医療消費者(Smart Helthcare Consumer)なのです。
これまでの医療従事者─患者関係においては、医療の専門家である医師をはじめとする医療従事者に対するお任せ医療が永らく続いてきましたが、残念ながら、医師は患者と運命共同体ではなく、医師は病気の種類や特性、治療方法についての知識は十分に持ち合わせていますが、実際に病気とどのように向き合い、その後の人生をどのように生きるかを決定するのは患者自身でなければならないのです。
なぜならその結果によってその後の人生を左右されるのは医師ではなく、患者とその家族自身だからです。医師は患者の性格や思考傾向、内面の深層心理までは、専門家であればある程度は理解できますが、すべて把握することは難しいと思われます。最も自分自身を知っているのは患者自身です。その意味においては、自らの心身に関する主治医は患者自身と言えるでしょう。
また、医師も人間であり、倫理観や人間観は医師個々人によって異なっています。自身の技術や勉学に対する厳しさ、患者に対する愛情の深さや正直さ等には個人差があるはずです。我が国の医療保険制度では、国民皆保険制度というすべての国民に医療サービスが標準的に提供されるすばらしい仕組となっていますが、診療報酬上医師の能力は標準化され、一定であるとされ、医師個人の資質や能力は十分に診療報酬に反映されない仕組みとなっています。
医療保険制度により一部負担ではあっても、患者は対価を支払って医療や介護サービスを受けていることを考えると、他の消費活動と同様に、自然により質の高いものに対価を支払いたいと誰しもが思うはずです。賢い医療消費者とは、健康や医療、介護など広くヘルスケアを取り巻く諸サービスに対し、十分な知識を兼ね備え、より質の高いサービスに対する評価の視点を持ち、自らにとって最善の意思決定と行動を選択することができる人々なのです。
本書を読み終えた後には、健康や医療等に対する情報を得て、自らのライフスタイルの見直しや、病気や医療観の変化を伴い、賢い医療消費者として、自らの夢やビジョンを実現し、毎日を明るく幸福に過ごせる人々が一人でも増えてくれることを期待しています。
著者
※本書「はじめに」抜粋
賢い医療消費者になるために
セルフヒーリング、セルフケア、セルフメディケーション一戸真子/著
A5判並製・211頁 定価=本体2200円+税
ISBN978-4-7845-1102-0 C0030 2018年4月刊
第1章 食と栄養(Food and Nutrition)
1.食育基本法
2.食品成分表
3.水分(Water)
4.栄養素
⑴ たんぱく質(Protein) ⑵ 脂質(Lipid) ⑶ 炭水化物(Carbohydrate) ⑷ 食物繊維(Dietary fi ber) ⑸ ミネラル(無機質)(Mineral) ⑹ ビタミン (Vitamin) ⑺ ファイトケミカル(フィトケミカル)(Phytochemical)
5.食品機能性表示制度の開始
6.食品衛生管理の国際標準化
7.食品の安全性に関する国際標準化
8.原料原産地表示制度、地理的表示保護制度
9.「和食」のユネスコ認定と日本文化
第2 章 メディカルハーブ(Medical Herb)
1.メディカルハーブとは
2.メディカルハーブと統合医療
3.自然療法としてのメディカルハーブ
4.メディカルハーブの特徴
5.アスピリンの誕生とハーブの関係
6.代表的なメディカルハーブ
⑴ ガーリック(Garlic) ⑵ ジンジャー(Ginger) ⑶ ジンセン(オタネニンジン、アメリカニンジン Ginseng)
7.メディカルハーブビジネス
第3章 セルフメディケーション(Self-Medication)
1.薬事法を理解する
⑴ 医薬品の定義 ⑵ 医薬品の種類と効能
2.一般用医薬品の分類と販売方法
3.後発医薬品(ジェネリック医薬品)
4.サニタリー・ライフケア商品
5.サニタリー・ライフケア業界分析
6.健康サポート薬局について
7.セルフメディケーション税制の開始で高まる薬局やドラッグストアの役割
第4章 休養・リラクゼーション(Rest・Relaxation)
1.現代はストレス社会
2.生体に備わっている恒常性(ホメオスタシス)の働き
3.マインドフルネス
4.ホルモン(Hormone)を理解する
5.ヒトの主なホルモンと内分泌腺
⑴ 視床下部 ⑵ 下垂体(脳下垂体) ⑶ 甲状腺 ⑷ 副甲状腺 ⑸ 膵臓 ⑹ 副腎皮質・副腎髄質 ⑺ 腎臓 ⑻ 性腺
6.スーパーホルモンは副腎で生成される
7.ワーク・ライフ・バランスの重要性
【参考】仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章
8.ヒーリングビジネスについて
9.アロマテラピー
⑴ アロマテラピーの歴史 ⑵ 精油 ⑶ 精油の作用 ⑷ アロマテラピーの利用方法
10.睡眠の質
11.ヨーガを取り入れた心身の浄化
12.カラーセラピー
13.アニマルセラピー
14.音楽療法
15.化粧療法
16.園芸療法の積極的活用
第5 章 ヘルスケアシステムとプロフェッション(Healthcare System and Profession)
1. わが国のヘルスケアシステムの特徴
2.憲法第25 条と社会保障
⑴ 憲法 ⑵ 社会保障 ⑶ 現在の社会保障に求められる基本的な考え方
3.医療保険制度と診療報酬制度
⑴ 医療保険制度 ⑵ 診療報酬制度 ⑶ 患者申出療養制度の開始
4.介護保険制度と地域包括ケア
⑴ 介護保険制度 ⑵ 地域包括ケアシステムの構築 ⑶ 医療介護総合確保推進法
5.医療の専門機関に関するルール
⑴ 病院と診療所の違い ⑵ 医療法の改正 ⑶ 医療法の改正が医療機関に与える影響 ⑷ 病床の特徴
6.保健・医療・介護・福祉各専門職
⑴ 医師・歯科医師 ⑵ 薬剤師および臨床工学技士 ⑶ 保健師・助産師・看護師等 ⑷ 理学療法士及び作業療法士 ⑸ 社会福祉士、介護福祉士および精神保健福祉士 ⑹ ケアマネージャー(介護支援専門員)
7.医療機能と組織
⑴ 外来部門と病棟部門 ⑵ 検査部門および医用画像・放射線部門など ⑶ 手術・集中治療部門
8.チーム医療の実践と診療の質の重要性
⑴ 精神科リエゾンチーム ⑵ 栄養サポートチーム ⑶ 診療の質の重要性
第6章 隠れたヘルスケアシステム(Hidden Healthcare System)
1.中国伝統医学
2.アーユルヴェーダ
3.ユナ二医学
4.『養生訓』
5.世界有数の温泉大国日本
第7 章 医療のグローバル化(Globalization of Medicine・Healthcare)
1.患者の権利(Patient’s Right)
2.患者の権利の根拠
⑴ 患者の権利に関するWMA リスボン宣言 ⑵ 医の国際倫理綱領
3.クオリティ・オブ・ヘルスケア(QOH)
4.患者の知る権利と患者安全
⑴ 医療機能情報提供制度 ⑵ 医療事故調査制度
5.患者とその家族の移動─メディカルツーリズム
6.グローバルヘルスケアに対する評価の流れ
7.Joint Commission International(JCI:USA)
8.感染症への理解を深める
⑴ 感染症の成立と対策 ⑵ エボラ出血熱 ⑶ 院内感染 ⑷ 生物多様性 ⑶ 生命とは?
おわりに─賢い医療消費者に求められる7か条
う
一戸真子(いちのへ・しんこ)
埼玉学園大学大学院経営学研究科 ヘルスケアサービス・マネジメント教授
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了、博士(保健学)
専門 医療・健康管理学、医療・健康経営学
日本学術振興会特別研究員、東京大学医学部客員研究員、日本医療機能評価機構研究開発
部客員研究員、北海道医療大学講師、高崎健康福祉大学助教授、
上武大学看護学部教授、同大学教育研究センター長などを経て現職
卒後臨床研修評価機構評価委員、同サーベイヤー
外国人患者受入れ医療機関認証制度認定調査員
群馬県公害審査会委員、伊勢崎市民病院経営検討委員会委員
Oxford Round Table Forum on Public Policy Board Member
Harvard Macy Institute Leading Innovation in Health Care and Education Project Member
Women’s Leadership Symposium in Oxford Advisory Council Member
Education Research Symposium at Oxford Advisory Council Member
【主な著書】
『ヘルスケアサービスの質とマネジメント』(単著、社会評論社、2012 年)/『国際看護』(編者、学研、2016 年)/『保健・医療・福祉の総合化』(共著、光生館、1997 年)/『福祉国家の医療改革』(共著、東信堂、2003 年)/『教養としての生命倫理』(共著、丸善出版、2016 年)/『看護学概説』(共著、NHK 出版、2016 年)/『健康と社会』(共著、NHK 出版、2017 年)/『新・生き方としての健康科学』(共著、有信堂、2017 年)/『Th e Path to Productive Aging』(共著、Taylor & Francis Publishers、1995年)/『Asian Perspectives and Evidence on Health Promotion and Education』(共著、Springer、2012 年)
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