著者から読者へ
2018年9月に「金融メルトダウン」が世界を襲う可能性が高まってきた。第一章で詳しく説明するとおりに、2008年前後の「GFC(金融大混乱)」が、実は「金融大地震」だった。そして、その後の「量的緩和(QE)」は、先進各国の中央銀行が国債の大量買い付けを実施し、「時間稼ぎ」と「問題の先送り」が行われただけの状況でもあった。
「コンピューターマネー」という「仮想現実」の世界で、金融メルトダウンが進行していたが、人々の生活に影響が及ばなかったために、実情に気付かなかったのである。自然界の大津波が、はるか沖で大きな波を形作ったものの、陸地にいる人々にはまったく影響がなかったような状況でもあった。
2016年半ばに、世界的な「国債バブル」が発生し、「マイナス金利」がピークを付けた。世界的な金融システムにおいて、金融メルトダウンが「国債バブル」を引き起こしたのである。
2017年にビットコインのバブルが発生し、すぐに崩壊した。金融メルトダウンが「預金」の部分にまで侵食したが、この時にも、インフレの大津波や金融メルトダウンの実情に気付く人は、ほとんど存在しなかった。
まさに、ケインズが述べたとおりに、「通貨の堕落が引き起こす崩壊の力は、百万人に一人も気づかないうちに進行する」という状況だった。
2018年の初頭、「インフレ懸念」が台頭した。1973年の状況が思い出されるが、当時は年初に、やはり「インフレ懸念」が台頭し、その後、「穀物の輸入規制」や「狂乱物価」に移行した状況でもあった。
金融メルトダウンが「紙幣」の部分にまで侵食した時に、本当の「インフレ(通貨価値の下落)」が発生する。国債価格が暴落し、金利は急騰、そして、今まで隠されていた「デリバティブ(金融派生商品)のバブル」が完全崩壊するものと思われる。
「インフレの大津波」が世界を襲い、人々は大混乱の状態に陥るものと推測されるが、このことは、現在、多くの人が感じている「漠然とした不安」が「現実の脅威」に変化する時である。
「日本の国家財政は、本当に大丈夫なのだろうか」
「少子高齢化で、日本の将来は、どのようになるのだろうか」
最近の「官僚による不祥事や公的文書の改ざん問題」などは、1987年から始まった「世界の膿出し」が最終局面に達したことを意味しているが、実は「外堀」が埋まった段階にすぎない。
「本丸」はやはり、ピーク時に「約8京円」という天文学的な規模にまで大膨張したデリバティブである。何らかの大事件が9月に発生するものと思われるが、このことを理解するためには「五次元の経済学」、すなわち「志の経済学」を理解する必要がある。
第五章で述べるとおりに、2016年に、ようやく基礎理論が完成した。金融界に従事して40年目のことだった。現在では、この理論の応用により、世界情勢がはっきり理解できるものと考えている。
志は「心指し」である。歴史を振り返ると、結局は「人々の心が、どの方向に向いているのか」により、それぞれの時代や社会が形成されることが理解できる。
私が創った「心の座標軸」において、現在、人々の心は、1600年前の「西ローマ帝国の時代」と同様に、「目に見えるもの」と「自分」に向かっている。
「マネーの大膨張」と「グローバル化」は、このことが主な要因であるが、その結果として、現在では「心の闇」が世界を支配し、さまざまな悩みや苦しみが発生しているのである。
「世の中は、どのようなメカニズムで動いているのだろうか」
「世界は、今後、どのような展開を見せるのだろうか」
今まで、これらの問題を考え続けてきたが、やはり問題は、「イエレン前FRB議長」が提起したように、「経済学の未熟さ」が指摘できる。既存の経済学は、「現在」だけを切り取り分析する「三次元の経済学」であり、「実体経済」だけに注目し、「マネー経済」を無視した「天動説の経済学」である。
「価格は需要と供給で決まる」ということは、中学生でも知っている事実であるが、「需要はどのようにして決定されるのか」を説明できる人は、現在、皆無の状態である。ビジネスや投資で求められているものは、「これから、どのようになるのか」という、「時間の変化」を考慮した「四次元の経済学」である。
しかも、人間の心は死後の安寧を望み、神社仏閣まで建立するという、たいへん厄介な代物でもある。需要の決定要因は、「死後の世界」までも考慮した「五次元の経済学」でしか説明が付かないのである。
「心の座標軸」と「文明法則史学」が結びついた結果として、人類の歴史はほぼ説明が付いた。
「お金の謎」と「時間のサイクル」、そして「心の謎」を解明することが、私自身のライフワークだったが、現在では、3分の2程度が完成した。この理論を基にして、これからどのような時代が訪れるのかを考えてみたい。
現在、「日銀の債務超過」や「先進各国の財政破綻」などが、マスコミの話題となっている。さまざまな事件が発生し、人々の心の闇は深くなる一方だが、闇を照らす光は「真理」である。現在は、仏教が教える「無明」の時代である。しかし時代の混迷期は、反対に、新たな「光」が照らされる時でもある。
今から300年ほど前、「ケプラーからニュートンへ」という言葉のとおりに、新たな光が照らされ、自然科学が飛躍的な発展を始めた。ケプラーが天体のサイクルを発見し、ニュートンが万有引力の法則を発見したからである。
60年ほど前、村山節氏が「文明法則史学」という「歴史のサイクル」を発見した。今後は、人間の行動を研究する「社会科学」において、「一般的な理論」が発見される時を迎えている。時代の大転換期は、新たな理論が生まれる時であり、この結果として、人類は絶えざる進化と創造を繰り返す。この点に関して、私の著書が少しでも役立つことを、心から望む次第である。
本間 裕
著者紹介
本間 裕(ほんま ゆたか)1954年 新潟県生まれ。1977年 東京外国語大学卒業後、大和証券入社。1983年 ロチェスター大学経営大学院修士課程(MBA)修了。その後、アメリカ大和、大和香港、本社エクイティ部で株式担当を歴任。2000年5月 同社退社後、投資顧問会社の代表取締役に就任。現在、(株)テンダネスの代表をつとめる。1999年から、日本証券新聞にコラムを連載中。西洋学と東洋学、そしてマネー理論を総合した「本間理論」にもとづく現代分析と株式予想が好評を博している。1997年の「信用収縮」や2000年の「インターネットバブル崩壊」、そして2001年の「9・11ワールド・トレードセンタービル事件」、2007年からの「金融大混乱」などを、ズバリ予測した。著書に『マネーの逆襲』(白順社)、『マネーの原点』(マルジュ社)、『マネーの精神』(社会評論社)、『未来予測への挑戦』(白順社)、『金融大地震とインフレの大津波 未来予測への挑戦(Ⅱ)』(社会評論社)などがある。
目 次
第一章 金融メルトダウンの予兆
- グローバル金融危機 2008年前後
- 量的緩和とマイナス金利 2016年
- ビットコインバブル 2017年
- 仮想空間から現実世界へ
- 実践の役に立たない為替理論
- 予見できた大事件
- 想定される事態は何か
第二章 バーナンキ、イエレン、カルアナの未来予測
(1)日銀で行われたバーナンキ元FRB議長の講演
- 日本発のきわめて特殊な金融政策
- インフレターゲットを追求し続ける場合
- アベノミクスの金融政策
- どのような方法が残されているのか
- 失敗すれば残る手段は皆無
(2)イエレン前FRB議長の演説
- 1929年以来の金融大混乱
- 非常手段の行使
- 金融市場崩壊の危機と世界の協調介入
- 「秩序ある清算方法」とリスクの軽減
(3)カルアナ前BIS総支配人のコメント
- グローバル化の第二波動とGFC
- 世界的な量的緩和と出口戦略
- 予想される国債価格の大暴落
第三章 「天動説の経済学」からのパラダイム転換
- イエレン議長の問題提起
- 天動説の経済学
- お金の謎が解けない理由
- アダムスミスと神の見えざる手
- 歴史的大転換期のアウフヘーベン
- 「心の闇」と「真理の光」
- パラダイムシフトと創造的破壊
- 速い頭脳と強い頭脳
- 「腑に落ちる」と「腑に落とす」
- カサンドラの予言
第四章 第一次大戦後ドイツのハイパーインフレ
(1)コサレス氏の序文──2018年アメリカと1924年ドイツの相似
(2)Scientific Market Analysis 1970からの訳出とコメント
- ハイパーインフレに至る紆余曲折
- ギャロッピング・インフレからハイパーインフレ
- 食料暴動と失業者の群
- 中産階級の絶望とヒットラーの出現
- ハイパーインフレの原因とメカニズム
- 最終段階としての経済崩壊
- レンテンマルクの奇跡
- 自己防衛に成功した者たち
- 1970年アメリカ
(3)コサレス氏のあとがき──2018年アメリカはドイツ・ハイパーインフレの初期段階
第五章 「心指し」の経済学 ─五次元への道
- 心の座標軸と文明法則史学
- 恐怖心の消滅
- 一念三千
- 絶対的他力本願
- 時間と空間
- 吾唯足るを知る
- 米国のフロンティア・スピリット
- 世界を動かす原動力
- 一日生涯、永遠の生命
- 宿業と原罪
- 輪廻転生
- 求めよ、さらば与えられん
第六章 オバマ広島演説と五次元経済学
(1)オバマ大統領の広島演説
(2)オバマからトランプ
- 国民の不満
- 歴史に残る迷演説
- トラの尾を踏んだトランプ
- パウエル次期FRB議長
(3)「習近平の夢」の時代錯誤
- 14世紀に始まる中・欧の大分岐
- ハートランドの支配国
第七章 混迷を深める世界経済
- 身ノ無キ財産
- 金融界のドーピング現象
- キャッシュレス社会の到来!?
- 囚人のジレンマ
- 高額紙幣の廃止
- グレーヤーズ・レポート─海外識者の現状分析
- 世界の現状と今後の展望
- ビル・グロス氏の超新星
- バブル破裂のメカニズム
- ホーキング噴射と特異点
- 知らぬは国民ばかりなり
金融メルトダウンが世界を襲う
マネーと時間と心の一般理論
本間裕/著
定価=本体2000円+税 ISBN978-4-7845-1852-4 四六判上製240頁
「通貨の堕落が引き起こす崩壊の力は、百万人に一人も気づかぬうちに進行する」(ケインズ)。ピーク時に「約8京円」という天文学的な規模にまで大膨張したデリバティブ。その崩壊が引き起こす大事件の発生を「五次元の経済学」から大胆予測!!
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