| 詳報 | 『検閲という空気 ─自由を奪うNG社会─』アライ ヒロユキ/著

「序章 あらゆる領域で自由を阻害するNG。その不明瞭なもの」より

 

ここ数年、人々の口にのぼるようになった幾つかの言葉がある。検閲、弾圧、規制、忖度、クレーム……。言葉と表現、行動の自由を狭める動きだ。

その事例を数え上げていくと、数の多さだけでなく、社会のさまざまな分野、問題、場所、行動形態に分布していることに気づかされる。

こうした事例の数々は言論表現への弾圧と呼べるものだ。だが、自由を狭める動きはこうしたはっきりとした輪郭を持つものばかりではない。マスコミの出版物では、言葉のより微細な問題、形容や批判のニュアンスはさまざまな圧力や業界慣行で穏当なものに変形される。

日々の生活と縁遠いと思われがちの言論表現だけでなく、より身近なところにも自由を狭める動きがある。お祭りは地域共同体が共有する伝統行事だが、しばしばその騒音や喧騒が同じ地域住民から厭われ、配慮に翻弄される。夏の浜辺でビールを飲むことも風紀を乱すことから禁じられる。これは夏の湘南界隈の現状だ。こうした事例の背後には、利害を異にする地域住民同士、あるいは観光客との摩擦がある。

一見まったく異なる背景を持つ出来事が同じ時期に起こり、いわば行動を制約する重しのように社会に積み重なってきている。多くの人は息苦しさを抱いている。これを目に見えるかたちにしようと人々は言葉を用いて説明する。検閲、弾圧、規制、忖度、クレーム。しかし、いずれの言葉をもってしても事態を十分に説明するには事足りない。

本書は自由の阻害に関わる事例を総覧するかたちで集めて紹介し、俯瞰によって共通の原因とその背景を探ることを目的としている。領域によりさまざまにかたちを変えるこの現象は、検閲や忖度など限定的な言葉で表すことはできない。そこでNGという多義的な言葉で代用した。

各領域のNGにわずかに共通する問題点を拾い上げ、それを線でつなぎ、織り成すタペストリーを見つけたとき、そこにどのような図像が見出せるだろうか。これは現在の日本社会のサマリーとも言えるものだ。ここから、暗い時代の突破口を見出すことを試みたい。

アライ=ヒロユキ

1965年生まれ。美術・文化社会批評。美術、社会思想、サブカルチャーなどをフィールドに、雑誌、新聞、ポータルサイト、展覧会図録などに執筆。美術評論家連盟/国際美術評論家連盟会員。著書に『オタ文化からサブカルへ』、『ニューイングランド紀行 アメリカ東部・共生の道』(以上、繊研新聞社)、『宇宙戦艦ヤマトと70年代ニッポン』、『天皇アート論』(以上、社会評論社)、共著に『メディアの本分』(彩流社)、『アート、検閲、そして天皇』、『エヴァンゲリオン深層解読ノート』(大和書房)ほか。

著者ウェブサイト http://isegoria.arts-am.com/

四六判ソフトカバー・261ページ
ISBN978-4-7845-2410-5 定価=本体2200円+税
装釘・後藤トシノブ

2018年7月下旬刊行!!


目 次


序章 あらゆる領域で自由を阻害するNG。その不明瞭なもの   

 

第1章 日常生活のNGが示す地域社会の亀裂

  • 保育所はなぜ地域社会から否定されるのか
  • それは不寛容か、生活の権利か
  • 浜辺の自由をめぐるそれぞれの主張
  • 利害のせめぎ合いがもたらす不自由
  • 生活保護をめぐって注がれる監視の目
  • 監視/防犯システムがもたらす、安全と管理

 

第2章 地域生活から閉め出されつつある政治と宗教

  • 祭りの喧騒が迷惑とされる理由
  • 「平和・戦争」「憲法」は自治体から疎まれる
  • 地域社会から政治性が排除される意味
  • 図書館の自由を攻撃するのは誰か
  • 良書主義ではなく機会の自由を

 

第3章 美術に見る、表現とその自由の歪められ方

  • 地域住民を無視した自治体の芸術エゴ
  • 美術の二大検閲、わいせつと政治
  • 美術作家が語る、美術館の自由のいま
  • 学芸員が語る、美術館をめぐる自由の現状
  • 真実を歪める、二次情報のありよう

 

第4章 マスメディアでいかに自由が蝕まれているか

  • 「公平性」が強いる報道の自由の危機
  • 外の視点が批判する日本の言論姿勢
  • メディア文化を毀損する「配慮」の実態
  • 放射能被害にいかにメディアが沈黙したか
  • 生き残るためのおたく文化の試み
  • 情報偏重と管理姿勢が自由を阻害する

 

第5章 各地で封印されつつある歴史の真実

  • 橋本内閣から始まった歴史への圧力
  • 圧力を受入れた、ピースおおさかの実態
  • 圧力を拒否した、リバティおおさかの選択
  • 排除攻勢を受けた、強制連行追悼碑
  • 史跡の説明板に対する「偏向」攻撃
  • 負の歴史を地域に活かす試み

 

第6章 一元性の圧力が教育を殺す

  • 国旗と国歌が奪う大学の自律性
  • 大学の自由の危機が意味するもの
  • 外国人学校と教育の自由のあり方
  • 自治体に封印された九条俳句
  • 公民館が社会に果たす役割とは
  • NPOの活動を阻む自治体行政

 

第7章 NGを生み出す社会背景とは

  • 異物の排除と公権力依存の背景
  • 近代社会が育んだ、不寛容の社会心理
  • 平成の大合併が変えた地域の自由のあり方
  • 自民党政権が推し進める国家統制策

 

第8章 公共空間の確立をめぐる困難さ

  • 情報環境の進化が日本の自由を阻害する
  • 他者の視点で歴史を思考すること
  • 感覚的判断の充満が人々の共約を阻む
  • 学びとは民主主義に不可欠のプロセス

 

第9章 公共性再生に必要な対話の手立て

  • 形式論を超えた、言論表現の自由のあり方
  • ヘイトスピーチが「殺す」自由とは
  • その差別判定は本当に正しいのか
  • 表現の多義性と公共性が求める姿勢
  • 言葉の再生から始まる自由の回復

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投稿者: 社会評論社 サイト

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