誰もが困難を抱え高齢化する時代
子どもの貧困、いじめによる自死といった現実に大人はいかに支援できるか。その実践と思考を続けてきた著者が老齢期に至り、地元のシニアクラブの活動を通して新たに見えてきた地域社会の課題。団塊の世代の「人生経験」が、新しい世代の子どもたちへの「人生モデル」を提供する場の有効性を模索する思考のドキュメンタリー。
四六判並製・214頁
定価=本体1700円+税 ISBN978-4-7845-1743-5
SQ選書15
2018年11月下旬発売
目次
1 自分史からの地域づくり
生きること、それがぼくの仕事/真実は現実のただ中ににあり/ライフヒストリー研究会
2 町内会、老人クラブを創った人
「聞き書き学校」の試み/老人クラブ設立の動き/次世代に引き継ぐもの
3 学びの場と地域の変遷
学びの場・寺子屋の発足/千秀小学校のあゆみ/田谷の歴史と風土に学ぶ
4 まちに「共生」の種子を蒔く
「笑顔・楽しく」の復刊/老人クラブの改革/知る・考える・つなげる
5 学び合いから暮らしづくりへ
市民による学びと交流の会/世間のルールと空気を読む/共同体の喪失と暮らしづくり
6 小地域のコミューン構想
暮らしの場と老人クラブ/地域が仕事の場/伊豆大島独立構想
7 脱成長時代の生き方・暮らし方
なぜ加害行為をしてしまうのか/同世代による相互扶助/生き方の転換点
8 コミュニティ・ワーカーと自治会
時間・空間・時間の喪失/コミュニティ・ワーカーの役割/自治会の意義と役割
9 人類は、なぜ生き延びてきたのか
いのちの再生と地域/地域づくりのキーパーソン/入間市の「老人憩いの家」
10 足元を掘る、暮らしを掘る
盆踊り・解放された世界/田谷の人物誌/チェルノブイリの祈り
11 地域再生と高齢者の生き方
老人クラブの歴史と現状/地域包括ケアシステム/高速道路と地域の分断
12 子どもと高齢者をつなぐもの
やりたいことは何ですか/忘れたいけど忘れてほしくない/子どもと交流できる場
13 聴く力と話す力の再発見
話を聴くこと、それが仕事/私たちはここにいる/子どもの頃の夢と憧れ
14 「暮らしの現場」からの再出発
学ぶことと生きること/つき合いたくない人とはつき合わない/いのちとの対話
「小さなプロローグ」より
二〇一六年、ぼくは一四年余りの沖縄生活を終えて、横浜の農村、田谷というまちに帰ってきたのであった。
まちに戻って、町内会(自治会)や老人クラブに参加し、小学校時代の同級生と会うなど、地域での暮らしを取り戻しつつ、ぼくは個人通信を続けてきた。
そして『公評』という月刊誌にも連載をさせてもらい、気付かされることが多かった。
約三年間にわたって書かせていただいた前半部を『〈繋がる力〉の手渡し方』(現代書館、二〇一七年)としてまとめさせていただき、後半部を今回、社会評論社より出版させていただくことになった。
地域で生きるという場合、ぼくらはどの範囲を地域と考えればよいか迷うことがある。
ぼくの考えでは歩いて日常的に出会える距離、これが生活圏なのではないかと思う。
もう少し具体的に言えば、小学校区がその範囲に当たるような気がする。
現代は少子高齢化社会となり、老々介護世帯も増え、人間関係の希薄化が進み孤立化がますます深刻化してきている。
また自然災害や放射能の不安も大きい。
こうした状況の中で、互いの生き方を尊重しつつ共に生き、暮らす社会をつくり出すことは可能なのか。
難しい問題は山積しているが、ぼく自身、小さなまちでまちの中に暮らしの根を張る生き方を始めたところである。
あちこちで、小さくとも暮らしづくりが始まり、つながり合っていく日を夢みている。
ジックリと読んでいただき、もし交流が始まればと期待している。
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野本三吉(のもと さんきち)
本名 加藤彰彦。1941年東京都出身。横浜国立大学教育学部卒業後、小学校教員を経て横浜市民生局寿生活館職員、児童相談所のケースワーカーをつとめ、1991年より横浜市立大学教授、2002年沖縄大学教授、2010年に沖縄大学学長を歴任。現在、同大学名誉教授。田谷長生会(老人クラブ)会長。子どもが安心して育つ社会と時代をつくることをテーマに、多様な視点からの〈子ども研究〉をライフワークとしている。著書『生きる場からの発想』『生きること、それがぼくの仕事』(社会評論社)『海と島の思想』「〈繋がる力〉の手渡し方』(現代書館)『希望をつくる島・沖縄』『野本三吉ノンフィクション選集(全6巻)』(新宿書房)『子どもとつくる地域づくり』(学苑社)ほか