| 詳報 | 鎌倉孝夫/編著 新自由主義の展開と破綻 『資本論』による分析と実践課題

A5判並製2段組 定価=本体2200円+税
ISBN978-4-7845-1859-3 2018年12月刊

 


まえがき


新自由主義政策を推進してきた各国において、人間社会崩壊―人間労働・人間生活崩壊というべき事態が進展している。その点で、日本は先頭を走っている。人口の絶対的減少は、この社会体制衰退の端的表現である。新自由主義の思想は、一九七〇年代半ば資本主義世界を襲ったスタグフレーションの資本家的解決策として現実に政策化され、推進された。産業大企業中心の減量合理化(省エネ、省力化)はその走りであった。八〇年代、米・レーガン政権、英・サッチャー政権、日本・中曽根政権は、本格的に新自由主義を推進した。公的企業・国家財政によって生活を維持・保障しようとする労働組合を暴力的に弾圧し、私的企業=資本による利潤獲得の場に転換させる─日本の国鉄分割・民営化は労働組合の暴力的解体という点でも典型的といってよい。各国で、経済を支配する金融大資本の行動に対して、中小企業・小農経営を一定保護する規制、環境保全上の規制等が、資本家的企業活動の自由な活動を阻害する、経済の活性化を妨げているとして、撤廃される。

新自由主義思想・政策は、ソビエト・東欧「社会主義」国、さらに中国・ベトナムにも浸入する。その下でソビエト・東欧「社会主義」は崩壊し、中国・ベトナムは市場経済化・資本主義化を進める。「社会主義」の崩壊―それは新自由主義を推進する金融大資本の弱肉強食の利己的利潤追求活動に対する抵抗力を弱体化させる。社会主義の展望を失った資本主義各国の労働者・民衆は、この体制の下で生活するしかないとの観念の下で、互いに弱肉強食の競争に巻き込まれ、新自由主義の潮流にのみ込まれる。21世紀に入り、新自由主義は、人間「労働」と人間「生活」上の規制撤廃にまで進む。人間「労働」は「物化」され、買った「物」の利用同然、資本に自由に利用される。生活(教育・文化・福祉を含め)領域は、資本の利潤獲得の場にされる。その下で確実に人間「労働」・人間「生活」は解体される。

ここでも新自由主義の世界的展開は、暴力=国家的暴力を伴っていた。アメリカの帝国主義支配に対抗し、自主権を堅持しようとしてきた中東諸国―アフガニスタン、イラク、リビア等―に対し、アメリカ政府は、軍事的抵抗力廃棄を条件に制裁解除・経済協力を約束し、軍事力廃棄によって抵抗力がないと確認したとたんに軍事侵攻して、帝国主義に抵抗してきた政権を解体化させた。その下で米金融資本は、その利潤を求めて資源支配・略奪を行うのである。新自由主義の下で、経済・社会を支配する金融大資本は、国家(直接には財政・金融政策)を、その競争力強化、利潤拡大目的で利用する。その下で国家は、国民(民衆)から税金を奪い、これを金融大資本に注ぎ込むという、収奪国家になっている。しかもその下で国家は、相手の抵抗力がないとみると侵略戦争にのり出すとともに、戦争の危機を意図的に作り上げている。収奪国家の下で、労働者・民衆が生活破壊に陥り、経済的に国民統合が困難になる中で、金融大資本の支配体制を維持する上に、意図的に外部からの無法な侵略の脅威を宣伝し、戦争の脅威をあおり立てる。

この点でも、日本の安倍政権の突出した朝鮮脅威宣伝は特筆ものである。トランプ大統領自身が、「信頼醸成」によって戦争を回避し、非核化・平和を進めようとしているのに、安倍氏は、米朝合意を勝手に歪曲して、あくまで朝鮮に対する〝先核放棄〟を主張し、それが検証・確認されるまで、制裁強化・圧力強化を図らなければならないとし、現に朝鮮のICBMを打ち落とすイージス・アショアによる迎撃実験さえ強行している。二〇一八年『防衛白書』は、朝鮮の「軍事的な動きは、わが国の安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威」としている。しかしこの戦争の脅威宣伝は、現実に略奪戦争を行うために国民大衆を統合・動員するというより、経済的に統合力を失った状況の下で、この体制を維持する上に国民大衆統合自体を目的とするもの、といえよう。虚偽宣伝によって大衆を欺瞞し続ける以外に、国家は国民大衆の統合を行えない、ということなのである。

本書は、新自由主義をマルクスの『資本論』の論理(と同時にレーニンの『帝国主義論』の論理)を基準に、総括することを意図した。新自由主義の展開がなぜ人間「労働」、人間「生活」を破壊するのか、そしてその展開はなぜ暴力=国家暴力を、そしてその極点である戦争を必然的に伴うのかを、『資本論』の論理で解明するという内容である。「資本」・現代の資本の主役=金融資本の本質の理解が鍵であることを示した。同時に、本書は、この新自由主義による人間・人間社会の解体化を阻止し、人間社会を確立する根拠も、『資本論』はその基本を明らかにしていることを示した。人間社会存立・発展の実体的根拠は、労働者・勤労者による労働・生産活動にある―『資本論』はこれを明確にした。社会存立・発展の実体的根拠の担い手=主体である労働者・勤労者が、主体としての自覚・意識を確立し、共同・連帯して主体としての実践を行うこと、それが社会主義の基本であり、社会主義の実現が今日さし迫った現実的課題であることを、明らかにしようとした。主体が明らかでない評論家的社会構想、自分自身が主体として実践するのでなく、だれかに(現実的には国家に)委せて自らの要求を果たそうとするのは、無力でしかないし、幻想でしかない。

本書を構成する論文は、このような内容の本をあらかじめ構想して書いたものではないが、この主題に統一的に編成しうる内容であった。ほとんど年、年に及ぶ『資本論』学習会の中で、執筆者各人の人間社会に対する基本的認識、それを解明する基本となる『資本論』の論理の理解が、共通するものとなっていることが示されたといえよう。学習会を主催してきた者として、このような成果を確認すること以上にうれしいことはない。

マルクス生誕二〇〇年にあたる二〇一八年、『資本論』の生命力を実証する本を出版しえたことを喜んでいる。

鎌倉孝夫


鎌倉孝夫(かまくら・たかお)
1934年生まれ 埼玉大学・東日本国際大学名誉教授経済学博士 [主な著作]『資本論体系の方法』日本評論社(1970年)、『経済学方法論序説』弘文堂(1974年)、『スタグフレーション』河出書房新社(1980年)、『国家論のプロブレマティク』社会評論社(1991年)、『資本主義の経済理論』有斐閣(1996年)、『株価至上主義経済』御茶の水書房(2005年)、『国家論の科学』時潮社(2008年)『資本論で読む金融・経済危機』時潮社(2009年)、『資本主義の国家破綻』長周新聞社(2011年)、『帝国主義支配を平和だという倒錯』社会評論社(2015年)[共著]『はじめてのマルクス』(佐藤優との共著)金曜日(2013年)、『21世紀に『資本論』をどう生かすか』(佐藤優との共著)金曜日(2017年)
中村健三(なかむら・けんぞう)
1951年生まれ [著作]『「廣松哲学」の解剖』(鎌倉孝夫との共著)社会評論社(1999年)、『『資本論』を超える資本論』(鎌倉孝夫との共著)社会評論社(2014年)

古川建(ふるかわ・たつる)
1962年生まれ

谷田道治(たにだ・みちはる)
1952年生まれ [著作]『解体する社会科とその行方』(1992年)、『未完の再生産表式』デザインエッグ社(2018年) [共著]『『資本論』を超える資本論』(同上)

渡辺好庸(わたなべ・よしのぶ)
1951年生まれ [著作]『やめられない日本の原発』社会科学研究所(1989年)、『検証・南兵庫大震災』論創社(1995年) [編著]『天皇学事始め』論創社(1990年)、『現代と朝鮮・上』緑風出版(1993年) [共著]『『資本論』を超える資本論』(同上)

目 次


まえがき ‥ 鎌倉孝夫


第Ⅰ篇 分析基準をめぐる諸問題
‥ 鎌倉孝夫


第一章 『資本論』で新自由主義を総括する

はじめに
第一節 新自由主義の自由は資本・金融資本の利潤追求・獲得の自由
第二節 資本の本質
第三節 現代の資本─金融資本

第二章 世紀資本主義解明に生きる『資本論』

第一節 検討すべき課題
第二節 資本主義は変革しうる、変革すべき社会である
第三節 資本主義を変革する主体の明確化

第三章 レーニン『帝国主義論』と現代資本主義の特徴

第一節 レーニン『帝国主義論』の今日的意義
第二節 現代資本主義の特徴
第三節 現代は、社会主義革命の前夜である


第Ⅱ篇 新自由主義は何を破壊したのか


第一章 人間「労働」破壊の現実  ‥ 鎌倉孝夫

はじめに
第一節 製品偽装は何を示すか
第二節 「人間労働」の特質―その歪み
第三節 人間労働破壊の現実
第四節 人間労働破壊がもたらすもの

第二章 人間「生活」破壊の現実 ‥ 鎌倉孝夫

はじめに
第一節 人間生活の特徴
第二節 現代資本主義の下での人間生活の歪み・破壊
第三節 戦争は人間生活・文化の最大の破壊

第三章 現代的賃金奴隷制 ‥ 中村健三

第一節 労働規制の自由化
第二節 八時間労働制は何の否定であったのか
第三節 賃労働者と奴隷の類比
第四節 脱時間給制の「真理」
第五節 現代の奴隷制

第四章 金融政策の迷走と欺瞞 ‥ 古川建

はじめに
第一節 金融資本の救済
第二節 金融資本の国家利用・社会支配
第三節 金融資本による収奪
第四節 現代の景気対策の中心は、財政政策よりも金融政策となっている
第五節 資本主義国における中央銀行
第六節 中央銀行の本質
おわりに

第五章 市場化と商品化に蝕まれる教育 ‥ 谷田道治

第一節 教育の市場化と資本の論理
第二節 教育の市場化と財政の腐蝕

第六章 天皇制のとらえ方 ‥ 中村健三

第一節 天皇の「お言葉」の波紋
第二節 天皇の権威と権力
第三節 天皇の代理者
第四節 天皇のイデオロギー効果
第五節 天皇の「人間宣言」の意義
第六節 天皇が抱えるもの
第七節 天皇の再度の利用意図と別の方向性


第Ⅲ篇 『世界史の構造』と『国体論』批判
‥ 中村健三


第一章 柄谷行人の「世界史の構造」

はじめに
第一節 広義の交換概念
第二節 実体の認識不能化
第三節 表象としての交換
第四節 近代世界と遊動社会について

第二章 白井聡の国体論

第一節 「国体の歴史」としての日本近代史という視点
第二節 戦前天皇制の二面という理解の限界
第三節 講座派的思考か
第四節 戦後天皇の政治行為
第五節 米国が天皇?
第六節 現在の改憲動向への視角


第Ⅳ篇 「変革」実践の課題


第一章 改憲攻撃への対抗軸 ‥ 渡辺好庸

はじめに
第一節 「戦後体制」の総括視点
第二節 今こそ、社会(主義)の主体としての実践を

第二章 平和は社会主義の本性的要求 ‥ 鎌倉孝夫

第一節 トランプ政権―グローバリズム転換?―
第二節 核兵器廃絶に向けて―戦争と平和
第三節 「平和は社会主義の本性的要求」であることの根拠

第三章 世界の平和・非核化をめざして ‥ 鎌倉孝夫

はじめに 朝米首脳「共同声明」の意義
第一節 朝米首脳会談「共同声明」の内容・その現実化への課題
第二節 米朝首脳合意をもたらした要因・背景、課題
第三節 中国習主席・中国共産党との連携・協力
第四節 トランプ大統領・政権の意図・狙いは

第四章 ロシア革命―その成功と挫折から学ぶ ‥ 鎌倉孝夫

第一節 ロシア社会主義革命成功の原因
第二節 ロシア社会主義挫折の原因

あとがき ‥ 中村健三
人名索引・参考文献


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