〈徳島大学総合科学部モラエス研究会〉宮崎隆義・寄稿─「外国人」の足跡から近代日本をひもとく手引き(2)

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あごひげ豊かな和服のおじさんの銅像を見上げるこれまた犬の銅像。ここは徳島県の観光スポット眉山にある公園。眉山にはたぬきを祀る神社があるそうですが、こちらの犬がみあげる人の名はモラエス(ヴェンセスラウ・ジョゼ・デ・ソーザ・モラエス、1854~1929)といいます。

モラエスの生涯に触れることもまた、日本の近代史に関心を持つきっかけになります。そこで今回は、徳島大学で活動されているモラエス研究会をご案内します。ご寄稿下さるのは、写真を送って下さいました徳島大学の宮崎隆義さんです。


《寄稿》

徳島大学総合科学部モラエス研究会

宮崎隆義

(Miyazaki Takayoshi 徳島大学教授)

 

2010年7月31日に,徳島大学総合科学部モラエス研究会が発足しました。立ち上げたのは,宮崎隆義(英文学,比較文学),佐藤征弥(植物生理学),境泉洋(臨床心理学)で,3人は徳島大学大学院総合科学教育部の共通科目授業「プロジェクト研究Ⅰ」を担当しました。それはこの教育部が目指す「地域科学」を支えるものでもありました。

3人とも専門分野はまったく異なりますが,このように異なる専門分野の教員が,大学院生と授業計画を立て「地域科学研究」を考えてゆくというものす。3人の専門分野を考え,無難な授業のテーマとして,「樹」,「木」に絡めてその植生や徳島の眉山の歴史や,そこにまつわる文化を考えていこうと「気」が合いました。なんとも朗らかな授業です。

大学院生との授業は大変楽しくて,宮崎が,モラエスというポルトガル人のことを紹介しました。大学院生も他のおふたりの先生もよく知らなかったようですが,それがきっかけで,こんな人物が徳島に16年も暮らしていたということにみんな驚きました。

結局これが縁でどっぷりとはまることとなり,もう少しモラエスについて研究活動をしようかと話がまとまって研究会の発足となったわけです。後に,当時の総合科学部長であった石川榮作(ドイツ文学,比較文学)も参加しました。

活動としては,毎月1回程度で例会・読書会を開いてモラエスの作品を翻訳で読みながら,参加者同士で過去のさまざまな情報を確認したり,よもやま話をしたりしております。参加は自由,会費なし,規則なしで,できるだけ気軽に大学にきてもらえることを心掛けています。

その他の活動として,モラエスの展示や講演会の実施も行っていますが,偶然というのか,運がいいというのか,2013年がモラエスの来徳100周年に当たって,それに合わせてモラエスの従兄弟の子孫が徳島に家族でやって来たり,藤原正彦さんが,父新田次郎の遺作を書き継いで出版したりと,神ってるというのか,とても恵まれた機運の中でさらに活動を広げています。

今では広くポルトガルの文化を知るべく,ファド講座や歴史の講演会,徳島の伝統文化である阿波人形浄瑠璃で,瀬戸内寂聴作の「モラエス恋遍路」を上演してもらったり,ポルトガル大使ご夫妻においでいただいたりと,地元のモラエス会徳島日本ポルトガル協会,さらには東京大阪のポルトガル協会とも連携しながら活動をしております。

2015年3月には,宮崎と佐藤が幸運にもポルトガルを訪ねることができ,徳島との姉妹都市レイリアやコインブラ,リスボンを急ぎ回りました。さらに2015年の暮れには,モラエスの半生を描いたパウロ・ローシャ監督の『恋の浮島』(1982年)がDVD化されたこともあって,今年2016年にはその映画の鑑賞会を開き,当時映画制作に関わっていた大竹洋子さんを東京からお呼びしての講演会と,ますますその活動を広げております。

《以上》


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眉山一望。ことしは何度も台風が日本列島を通過しました。この日も空は曇りですが、ことしならではの記録として宮崎様よりご提供いただきました。


さて、宮崎隆義様には小社ほろよいブックス『東京府のマボロシ』でモラエスについてご寄稿いただいております。その一節をご紹介します。

モラエスは、徳島に十六年間暮らした。

長屋住まいによって『方丈記』さながらの生活を送り、鴨長明にうかがえる日本人の心性を体現したといってもよいだろう。

その点では、イギリスのウィリアム・ワーズワースが述べた「質素な生活と高邁な思索」を受け継いだともいえるアメリカのエマソン(一八〇三~一八八二)や、その実践者たるソロー(一八一七~一八六二)の姿に重なるといってもよい。

モラエスと関わったおヨネとコハルのことばかりが評伝的な小説によって拡大誇張されているきらいがあるが、モラエスの本質はもっと別のところにある。

異邦人でありながら庶民として、庶民の中で暮らしながらモラエスが眺めていた徳島の姿、徳島の人々は実に活き活きとしている。

そうした生活をしながらおヨネを追慕し、コハルもおヨネと同じように追慕しながら描き出すということは、実はふたりを通して当時の庶民たちの姿を描き出すということであったろうと思われる。

◎宮崎隆義「モラエスの夢─国領事モラエスと第五回内国勧業博覧会─」より(『東京府のマボロシ』所収)

ほろよいブックス
東京府のマボロシ
失われた文化、味わい、価値感の再発見

編 : ほろよいブックス編集部
定価=本体2400円+税 A5判変型 368頁
ISBN978-4-7845-1724-4

 

投稿者: 社会評論社 サイト

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