*売れ行き好調につき重版出来 2021年3月下旬
平等とは何か? どうしたら貧困・差別・格差をなくせるか?
表題にある「哲学」は古代以来の政治哲学や社会哲学の伝統における本来の「哲学」を、すなわち抽象的原理をふまえて、現実の具体的問題を考察し未来の制度と社会を構想する知的営為を意味している。
*目次
序 章 平等とは何か 新村聡
第Ⅰ部 平等の思想史
第1章 アリストテレスの平等論 ・・・ 石野敬太
第2章 ルソーの平等論 ・・・ 吉田修馬
第3章 スミスの平等論 スミスは平等主義者か ・・・ 新村聡
第4章 カントの平等論 ・・・ 網谷壮介
第5章 J.S. ミルの平等論 富の分配と貧困をめぐって ・・・ 小沢佳史
第6章 マルクスの平等論 ・・・ 中村宗之
第7章 ピグーの平等論 ・・・ 山崎聡
第8章 ケインズの「ニュー・リベラリズム」 「平等」への対処、および「平等主義哲学」での位置づけ ・・・ 平井 俊顕
第9章 ロールズの平等論 ・・・ 魚躬正明
第10章 センの平等論 社会的選択理論の核心 ・・・ 後藤玲子
第Ⅱ部 現代社会と平等
第11章 ジェンダーと平等 ・・・ 板井広明
第12章 健康と平等 健康格差の不当さについて考える ・・・ 玉手慎太郎
第13章 障害と平等 障害者のシティズンシップはいかに否定されてきたか、いかに正当化しうるか ・・・ 寺尾範野
第14章 動物と平等 ・・・ 田上孝一
第15章 情報と平等 情報の平等を推進するものと阻むものインターネットと資本の論理 ・・・ 平松民平
第16章 責任と平等 帰結引き受け責任と行為者性行使責任 ・・・ 阿部崇史
第17章 教育と平等 ・・・ 宮崎智絵
第18章 グローバリゼーションと平等 「デモス境界線」問題の批判的考察を通じて ・・・ 内田智
第19章 賃金と平等 ・・・ 遠藤公嗣
第20章 福祉国家と平等 ・・・ 佐々木伯朗
第21章 税と平等 ・・・ 伊藤恭彦
「まえがき」抜粋
現代の日本でも世界でも貧困・差別・格差が拡大している。
日々のニュースが伝えるように、日本社会の底辺では貧困と格差が深刻化し、こどもの貧困、ひとり親の貧困、不安定就業者の貧困、女性の貧困、若者の貧困、中高年の貧困、高齢者の貧困が拡大している。
また、ジェンダー差別、人種・民族差別、障害者差別、職業差別、動物差別などのさまざまな差別が続いており、健康格差、医療格差、情報格差、教育格差、文化格差などのさまざまな格差が人々の尊厳ある生活の実現を妨げている。
世界に眼を転ずれば、貧困・差別・格差はいっそう大規模かつ深刻である。長期的トレンドに加えて、新型コロナは世界各地で社会の底辺に生きる人々を直撃して困窮生活を強いている。
多くの人々が、貧困・差別・格差の問題を解決するために懸命の努力を続けているにもかかわらず、状況は悪化しているようにすら見える。なぜ格差社会の問題は解決されないのであろうか。あらゆる問題に複数の原因があるように、貧困・差別・格差の原因もさまざまである。とはいえ日本社会の格差と貧困の深刻化の原因として次の2 点は指摘できるであろう。
第1 に、格差社会を克復してどのような社会をめざすべきかという点について国民的合意ができていないことである。経済格差に限っても、賃金・社会保障・税の制度の包括的な検討と再構築への国民的合意が欠かせない。しかし個々の制度をめぐって難問が山積しているだけでなく、めざすべき社会のグランドデザインに関する国民的合意の形成にはほど遠い現状にある。
問題解決が進まないもう1 つの原因として、専門研究者の協力が弱いことがあげられる。貧困・差別・格差の問題は政治・経済・社会の多分野にわたっており、各分野の複雑な問題構造を検討して実現可能な改革案を構想するには高度の専門的知見を必要とする。それゆえめざすべき社会のグランドデザインを描くためには、各分野の専門家の緊密な協力が欠かせない。しかしながら、格差社会の現状に関心を寄せる専門研究者はさまざまな分野に多数いるにもかかわらず、分野を越えての交流と協力はきわめて不十分な状況にある。本書は格差問題に関心をもつ諸分野の研究者の協力促進と、めざすべき社会への国民的合意の形成に向けて、少しでも貢献できることを期待している。
定価=本体2800円+税 ISBN978-4-7845-1588-2 A5判並製392頁 2021年1月刊
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*目次詳細
まえがき 新村 聡
序 章 平等とは何か
新村 聡
1. 平等と分配的正義の基礎概念 1-1. 平等とは何か 1-2. 分配的正義の4原則 2. 古代思想における平等と分配的正義 2-1. プラトン 2-2. アリストテレス 3. 近代思想における平等と分配的正義 3-1. 古代から近代への転換 3-2. ホッブズとスミス 3-3. 資産と所得の不平等と再分配 3-4. マルクス 3-5. ロールズとセン
第Ⅰ部 平等の思想史
第1章 アリストテレスの平等論
石野敬太
1. 市民と市民間の政治的関係 1-1. 市民とは誰か 1-2. 市民間の政治的関係 1-3.「 国制」と「応報」の原理 2. 公職の配分と「配分的正義」 3. ポリスと幸福
第2章 ルソーの平等論
吉田修馬
1.『 人間不平等起源論』 1-1. 自然的な不平等と社会的な不平等の区別 1-2. 自然状態の平等 1-3. 社会の進歩と不平等の拡大 1-4.『 不平等論』の結論 2.『 社会契約論』と政治的著作 2-1. 社会契約をめぐる平等 2-2. 国家における平等 3『. エミール』 3-1. 男女の平等 3-2. 人間の平等
第3章 スミスの平等論 ——スミスは平等主義者か
新村聡
1.『道徳感情論』の平等論 2.『法学講義』と『国富論草稿』の平等論 3.『 国富論』の平等論
第4章 カントの平等論
網谷壮介
1. 人格と尊厳 1-1. 理性と普遍的義務 1-2. 理性の尊厳 2. 人間としての平等 2-1. 生得的自由権の平等 2-2. 結婚の平等 3. 国家における平等と不平等 3-1. 市民の平等 3-2. 社会経済的不平等
第5章 J.S. ミルの平等論——富の分配と貧困をめぐって
小沢佳史
1. 富の分配と貧困をめぐるミルの議論の前提 2. 理想的な私有財産制への接近 (1)──労働と節制に応じた分配の実現 2-1. 社会主義と私有財産制 2-2. 遺贈・相続財産をめぐる政府介入 2-3. 土地をめぐる政府介入 3. 理想的な私有財産制への接近 (2)──不平等な分配の下での貧困対策 3-1. 政府による生存の保障とそれに伴う制約 3-2. 教育・植民政策に基づく生活水準の底上げ 4. 将来世代の可能性──社会主義をめぐって 4-1. 共産主義──平等原則に基づく社会 4-2. フーリエ主義──必要原則(のちに貢献原則)に基づく社会 4-3. アソシエーションの普及と社会主義への道
第6章 マルクスの平等論
中村宗之
1.『共産党宣言』における平等 2.『資本論』における平等と不平等 3.『ゴータ綱領批判』における分配原理 4. 唯物史観 4-1.『 経済学批判』の「序言」 4-2. 社会主義と権威主義 5. 平等をどのように達成するか 5-1. 家族類型に由来する権威主義と平等主義 5-2. AI とBI の組み合わせによる共産主義 5-3. 分権化による種々の経済社会体制の選択
第7章 ピグーの平等論
山崎聡
1. ピグーにおける平等観念 2. 平等原理の正当化の試み 3. 厚生経済学における平等 3-1. 塩野谷解釈:二種の通約不可能性 3-2. 第一命題における平等思想 3-3. 複合的正義における平等 3-4. 優生学関連(享受能力)
第8章 ケインズの「ニュー・リベラリズム」 ── 「平等」への対処、および「平等主義哲学」での位置づけ
平井俊顕
1.『 平和の経済的帰結』― 始発点 2. ニュー・リベラリズム 2-1. 1920 年代中葉 2-2. 1930年代・1940年代 3.「平等」および「平等主義哲学」とケインズ 3-1. 平等 - ケインズが実際に取ったスタンス 3-2. 平等主義哲学空間で見ると
第9章 ロールズの平等論
魚躬正明
1. 最高度の平等の視座――「自由で平等な人格としての市民」 1.1. なぜ不平等に関心をもつのか 1-2. 自由で平等な人格とは何か 2. 正義の二原理と功利主義の比較の要点 3. 平等な社会への制度構想―― 財産所有のデモクラシー
第10章 センの平等論—— 社会的選択理論の核心
後藤玲子
1. セン型社会的選択理論の特徴 2.「何の平等か?」―― 包括的平等論と潜在能力(ケイパビリティ)概念の提唱 3. センにおける不平等の経済学―― 不平等の特定と測定 4. 功績原理と必要原理のα 結合ルール 5. 差異に基づく平等
第Ⅱ部 現代社会と平等
第11章 ジェンダーと平等
板井広明
1. ジェンダー秩序 1-1. セックス/ジェンダー 1-2. ジェンダー不平等の現状 1-3. ジェンダー役割と抑圧 2. ジェンダー平等 2-1. フェミニズムと功利主義 2-2. 公私二元論再審 2-3. ジェンダー平等の枠組み
第12章 健康と平等──健康格差の不当さについて考える
玉手慎太郎
1. 健康格差とは何か 2. 健康格差はなぜ不当なのか 2-1. 社会正義の課題:すべての個人の等しい尊重 2-2. 不利益の不当さを強める条件 2-3. 健康格差と社会正義 3. 健康格差はどこまで是正されるべきか 3-1. 従来の政策アプローチの問題点 3-2. 健康格差対策をめぐるディレンマ
第13章 障害と平等──障害者のシティズンシップはいかに否定されてきたか、いかに正当化しうるか
寺尾範野
1. リベラリズムによる障害者の排除 2. シティズンシップの平等にむけて 2-1. 障害の社会モデル+能力主義 2-2.「 尊厳ある生」の再定式化 2-3.「 個人」から「関係」へ、「自立」から「依存」へ
第14章 動物と平等
田上孝一
1. 平等の根拠──人間の平等について 2. なぜ動物なのか──人間中心主義と種差別の問題 3. 利益に対する平等な配慮──功利主義的動物平等論の検討 4. 目的的存在としての動物──功利主義から権利論へ
第15 章 情報と平等──情報の平等を推進するものと阻むもの インターネットと資本の論理
平松民平
1. 情報とは何か 1-1. 情報の歴史 1-2. 経済面から見た情報の本質 2. インターネット 2-1. インターネットとは 2-2. デジタルデバイド 3. 財としての情報の平等な分配 3-1. 財の生産と支出される労働の関係 3-2. 情報財と資本主義 3-3. 限界費用ゼロ社会 3-4. 貧しい平等と豊かな平等 3-5. コピーレフト運動
第16 章 責任と平等──帰結引き受け責任と行為者性行使責任
阿部崇史
1. 運の平等主義と帰結引き受け責任としての選択責任 2. 関係論的平等主義による是正の原理批判 3. 自律基底的運の平等主義と行為者性行使責任としての選択責任 4. 自律基底的運の平等主義による社会構想
第17 章 教育と平等
宮崎智絵
1. 教育における平等と不平等の構造 1-1. 教育機会均等 1-2. 分配 1-3. 能力 1-4. 選抜 2. 不平等を再生産する構造 2-1. 再生産の構造 2-2. 文化資本 2-3. ハビトゥス(habitus) 3. 事例からみる教育の平等と不平 3-1. 日本 3-2. インド
第18 章 グローバリゼーションと平等——「デモス境界線」問題の批判的考察を通じて
内田智
1.「何の平等か」から「誰の平等か」へ──「平等」をめぐる哲学的諸構想において前提とされてきた秩序認識 2. グローバル・ガヴァナンス論とその隘路──「機能と必要性」の論理の背後に閑却される平等への関心 3. グローバルな次元における平等とデモクラシー ──デモス境界線問題の再検討 4. グローバル化する世界における平等──そのさらなる「哲学的」探究の展望を開くために
第19 章 賃金と平等
遠藤公嗣
1. 賃金の決め方の二大分類 2. 国際標準としての賃金平等原則 2-1. 職務の内容が違うときの「同一価値労働同一賃金」原則 2-2.「 同一価値労働同一賃金」の米国での開発と衰退および欧州諸国での発展 2-3. 職務の内容が同一(類似)のときの「比例賃金」原則 2-4. 未確立の国際標準 3. 日本の正社員における好ましい賃金と平等 3-1.「 生活給」思想と平等観の展開 3-2.「 生活給」思想ないし年功給が想定するもの 3-3. 想定の適切と不適切
第20章 福祉国家と平等
佐々木伯朗
1.「 財産所有制民主主義」と福祉国家 2. 福祉国家の上限 3. 平等化政策の問題 4. 福祉国家における再分配 5. 経済システムにおける共同体 6. 共同体と福祉国家
第21章 税と平等
伊藤恭彦
1. 所得への課税 2. 資産への課税 3. 平等を促進する税
あとがき 田上 孝一
事項索引
人名索引