|叢書・いのちの民俗学1|  出産 産育習俗の歴史と伝承「男性産婆」 板橋春夫/著

出産は差別の問題と深く関わる。助産が血のケガレから差別視された時代や地域があった。その歴史も視野に入れて研究していかねばならないと思う。まずは男性産婆の全国的規模の存在確認が緊急の課題である。

第1部 出産儀礼

いのちの民俗学〜新しい生命過程論の模索/通過儀礼の新視角/出産から学ぶ民俗

第2部 産育の歴史

いのちと出産の近世〜取揚婆、腰抱きの存在と夜詰の慣行/トリアゲバアサンから助産師へ

第3部 伝承・男性産婆

トリアゲジサの伝承/赤子を取り上げた男たち〜群馬県における男性産婆の存在形態/民俗研究と男性産婆/男性産婆の伝承 〜羞恥心の問題を視野に入れて

補 章 近代出産文化史の中の男性産婆

コラム 出産とことわざ/初乳のこと/教養としての民俗学

用語索引付き


エッセンス


【第1部 出産儀礼】
大学の図書館で大藤ゆき著『児やらい』の表紙が製本し直されていた。その本は、産育民俗のレポートを課せられた学生や卒論を書く学生の必読書であり、私も産育に関する授業や原稿執筆には必ず参照する一冊である。私の手元にある本は一九七七年発行とあるが、初版は戦前であり長く利用されてきたことが分かる。すり切れるほど読まれる本をいつか書いてみたいと願うのは私だけだろうか。大藤にならって身近な事例を紹介しながら出産儀礼の事典風解説を試みたのが第3章「出産から学ぶ民俗」である。なお、第1章「いのちの民俗学」と第2章「通過儀礼の新視角」では、私が提唱している「いのち」の民俗学に関する考え方を分かりやすく述べてみた。

【第2部 産育の歴史】
江戸時代の出産習俗は興味深く、現在の出産からは想像もつかないことばかりである。少なくとも明治初期までは行われていた慣行であると思われるが、現在はその痕跡すら残っていない。八戸藩の上級家臣の日記には十一人の赤子出産の記録がある。出産習俗としても貴重で、ていねいに見てゆくと意外な発見があり、注目すべき部分には線を引いたので江戸時代の習俗を垣間見ていただきたい。出産が自宅から病院に移ってから久しい。第2章「トリアゲバアサンから助産師へ」では、助産に関わる人たちの変化の諸相とその基本的枠組みを提示するとともに、産婆には赤子の「いのち」をこの世に安置してくれる呪術者としての側面が見られることを紹介した。

【第3部 伝承・男性産婆】
男性産婆は発見された。それは民俗学研究における一大事である。私はかつて群馬県吾妻郡で二人のお産婆さんに出会い、ライフヒストリーをお聞きした。それを論文にまとめ研究雑誌に発表したところ、長野県の歴史研究者から群馬には男性産婆がいると連絡をもらった。新潟県にも男性産婆がいると教えてくれた研究者がいる。惜しげもなく貴重なデータを提供してくれた人たちに感謝しつつ、改めて人のつながりの大切さを思う。大げさに言えば、男性産婆が私に向かって近づいてきて、データが集まるたびに論文を書いてきた。これらの論文は、前に書いたものを確認しながら次に進む形を採用しており、執筆順の配列では若干の重複が目に付くが、それは私の男性産婆研究の軌跡そのものである。


四六判並製304頁 定価=本体2000円+税 ISBN978-4-7845-1710-7


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投稿者: 社会評論社 サイト

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