マルクスの思想は世界を変えた。だが社会主義体制は破綻して、資本主義が地球規模の環境破壊を加速する。
マルクスの限界をその思想源泉であるヘーゲルから捉え直す、実践のための論考。
目次
はじめに
1 マルクスの思想は世界を変えた
2 マルクスを超えるために
3 唯物史観とは何か
4 「ブルセラショップの女子高生」
5 構成
6 『資本論』はどこに行ったのか
第Ⅰ章 理想と現実の間 マルクスによるヘーゲル評価の二面性
1「理性的なものが現実的、現実的なものが理性的」
2 マルクスによるヘーゲル評価の二面性
3 自然と社会の関係
第Ⅱ章 存在は運動し、自らの本質を外に現わす。だから認識はそれを見ているだけで良い。
1 ヘーゲル哲学における存在の運動と認識の運動
(1)ヘーゲルの時代とマルクスの時代
(2)ヘーゲルの存在論と認識論
2 認識論上の問題
(1)認識論の難問 「ただ見ているだけ」、結果論的考察、「ミネルバの梟」
(2)難問への答え 結果論的考察、「ミネルバの梟」の検討
(3)マルクスとヘーゲルの行ったこと その矛盾
3 問題の真の答え 存在の運動と認識の運動
(1)存在が運動する 三段階からなる運動
(2)存在論レベルでの存在の運動 変化の中の「当為」
(3)本質論レベルでの存在の運動 反省、反照
(4)主体的な働きかけ
(5)概念論レベルでの存在の運動 発展
4 鶏鳴学園での実践
(1)存在論から制限と当為
(2)本質理解の問題
(3)概念を問う
第Ⅲ章 マルクスの人生──『経済学批判』への「序言」から
1 『経済学批判』への「序言」の訳注
2 マルクスの思想の成立とその後─革命のための思想
(1)マルクスの思想的履歴書
(2)序言全体の立体的構成と二つの謎
3 若きマルクスの時代背景
(1)マルクスとエンゲルス
(2)ウィーン体制下のドイツ
(3)革命の時代七月革命と二月革命
(4)ドイツの思想状況
4 若きマルクスの闘い二つの問いと答え
(1)マルクスの問題意識
(2)ヘーゲルの『法の哲学』の批判
(3)唯物史観の確立まで
(4)一八四八年の革命とそれ以降
5 唯物論と観念論─止揚(aufheben)の意味
第Ⅳ章 若きマルクスの闘い 「フォイエルバッハ・テーゼ」
1 「フォイエルバッハ・テーゼ」の訳注と説明
2 「フォイエルバッハ・テーゼ」の意味
(1)マルクスの初心
(2)全体の構成とその内容
(3)対置する形式と、発展からとらえる形式
(4)テーゼ4とテーゼ6
3 フォイエルバッハの疎外論
(1)ヘーゲルの発展観
(2)フォイエルバッハの疎外論
(3)フォイエルバッハの本質理解主語と述語の転倒と再転倒
(4)本質理解と発展観(概念的把握) テーゼ6とテーゼ4
(5)イデオロギー批判
4 青年マルクスの二つの側面
(1)フォイエルバッハの疎外論とヘーゲルの発展観
(2)二人の先生
(3)先生を選べなかったマルクスの事情
5 宗教はどう克服されるのか
(1)マルクスの宗教論
(2)マルクスへの批判
(3)マルクス主義の宗教への転落
(4)意識の内的二分と悪の問題
(5)ヘーゲルの宗教観
6 マルクスの悟性的側面
(1)マルクスの悟性的思考の問題
(2)主語と述語の転倒と再転倒
(3)夢と理想
(4)理論と実践/
(5)私有財産、国家、精神労働と肉体労働の分業、都市と農村の分裂、個人と「共同」「協同」の分裂の「止揚(廃止)」(aufheben)
(6)唯物史観の規定の一面性
第Ⅴ章 唯物史観
1 唯物史観のラディカルさ
2 唯物史観の定式の立体性
(1)立体的構成
(2)マルクスの説明のわかりにくさ
3 唯物史観の三項
(1)問題
(2)唯物史観の三項と生産力
(3)ヘーゲルの目的論とマルクスの労働過程論
(4)人間労働の三項
4 上部構造と下部構造、イデオロギー、存在と意識、存在と当為
(1)存在と当為、個人と社会
(2)上部構造と下部構造
(3)イデオロギー
(4)サラリーマン、官僚・役人、大学教授という生き方
5 自然と人間の関係
(1)前提と定立の関係
(2)自然の真理は人間である
(3)ヘーゲルの絶対的真理観
(4)社会の真理は個人である
6 方法
(1)研究のための「導きの糸」
(2)方法と能力と生き方
(3)唯物史観と「経済学の方法」
7マルクスはヘーゲル哲学のどこをどう発展させたのか
8 マルクスの限界と私たちの課題
(1)自然と生産力
(2)個人と組織 民主主義の問題
(3)悪の問題 悪の肯定的理解
第Ⅵ章 「経済学の方法」(「経済学批判序説」の第三章)
1 「経済学の方法」(「経済学批判序説」の第三章)の訳注
2 全体の構成のわかりにくさ
3 歴史と論理全体の理解
(1)発展の理解補助線
(2)マルクスの歴史と論理とは何か
4 各段落の理解
5 マルクスの問題
第Ⅶ章 時代の限界と時代を超えること
1 マルクスの問題
(1)マルクスの直面した問題
(2)哲学史は時代を超える
(3)マルクスのヘーゲル批判
(4)マルクスは時代の課題にこたえた
2 ヘーゲルの回答
(1)ミネルバの梟
(2)プラトンの『国家』
〔付論〕ヘーゲル哲学は本当に「観念論」だろうか
おわりに
著者紹介 中井浩一(なかい・こういち) 1954年東京生まれ。京都大学卒業後、現在国語専門塾鶏鳴学園塾長。国語教育、作文教育の研究を独自に続ける傍ら、90年代から進められている教育改革についての批評活動をした。 教育改革についての著作は、『高校卒海外一直線』(2002年中公新書ラクレ)、『徹底検証・大学法人化』(2004年中公新書ラクレ)、『大学入試の戦後史』(2007年中公新書ラクレ)、『被災大学は何をしてきたか』(2014年中公新書ラクレ)。編著に『論争・学力崩壊』(2001年中公新書ラクレ)、共著に『研究不正と国立大学法人化の影』(2012年社会評論社)などがある。国語教育では、『脱マニュアル小論文』(2006年大修館書店)、『「聞き書き」の力-表現指導の理論と実践』(2016年大修館書店)、『日本語論理トレーニング』(2009年講談社現代新書)がある。 こうした活動の根底にあるのがヘーゲル哲学の研究である。30歳代の10年間を牧野紀之氏のもとでヘーゲル哲学研究に没頭し、その発展の立場を獲得することをテーマとしてその後も研鑽してきた。その成果として、『ヘーゲル哲学の読み方』(2020年社会評論社)がある。
2022年2月7日刊
現代に生きるマルクス 思想の限界と超克をヘーゲルの発展から考える
中井浩一/著
定価=本体2700円+税 ISBN978-4-7845-1887-6 A5判並製292頁(本文二段組)
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